柳家喬太郎「銭湯の節」“浪曲”という芸能ジャンルへのリスペクトと愛情がこもった新作に!

紀尾井小ホールで「玉川奈々福 喬太郎アニさんをうならせたい うなうなスペシャル」を観ました。(2022・04・01)

奈々福さんがリスペクトしてやまない喬太郎師匠を「自身の芸でうならせたい!」と体当たりしてきたシリーズも、去年春に全7回で完結した。そこで奈々福さんが頑張ったご褒美として、「もしよろしければ、浪曲をうなっていただければ」と直訴した。

だが、喬太郎師匠は「浪曲」という芸能ジャンルへのリスペクトを掲げ、落語家という立場としての分をわきまえたいという思いを明かし、その直訴をやんわりといなしたのだそうだ。だが、「浪曲を意識したような高座をできれば」と言ってくれたという。

そして、この日。喬太郎師匠は「浪曲を意識した」新作をネタおろししてくれたのである。とっても、良かった!

「銭湯の節」柳家喬太郎

孫娘の麻衣は、おばあちゃんの誕生日にプレゼントしたいと思っている。でも、おばあちゃんはそんなものはいらないよと言う。そして、おばあちゃんが若かった頃、夢中になっていたものを語ってくれる。

ラジオが娯楽の王道だった。その中でも、ラジオから聞こえる浪曲が好きだった。男性もまた然りで、それを真似て、銭湯でうなる人が必ずいた。おばあちゃんはその「素人のうなり」に掛け声をかけたかったという。

そうか。麻衣ちゃんは銭湯でおばあちゃんに掛け声を掛けられるようにしよう!それが誕生日プレゼントだ!と考える。町内の世話役みたいなおじさんのところに相談に行く。

浪曲はね、節と啖呵があってね。と言って、ちょっとうなる。旅ゆけば駿河の道に茶の香り~。夫は妻をいたわりつ、妻は夫を慕いつつ~。麻衣ちゃんが落研出身ということで、「芝浜」を例に浪曲風に節と啖呵で演じ分けるところが、最高に愉しかった。

それで、麻衣ちゃんは自分で浪曲をうなって、おばあちゃんに銭湯で掛け声をかけてもらおうと、頑張る。麻衣ちゃんは普段の生活でも、浪花節で会話をする。営業職だから、営業先への挨拶も浪花節になって、それは先代圓歌師匠の「浪曲社長」を彷彿させるものだった。

で、麻衣ちゃんが何とか浪花節をマスターしたところで、おばあちゃんを連れて銭湯に行くが…。

この作品は、喬太郎師匠が本当に「浪曲」という芸能をリスペクトして創作したことが、よーくわかる、とっても温かい新作だと思った。奈々福さんへの最高のプレゼントになったのと同時に、落語も浪曲も好きな演芸ファンにはたまらない一席となったのではないだろうか。