三遊亭兼好「やかんなめ」癪の合い薬になった禿げ頭のお侍の心の優しさを苦笑いに見た

練馬文化センターで「俺たちの円楽党Ⅲ」を観ました。(2022・03・09)

カメラマンの橘蓮二さんのプロデュースによる、三遊亭兼好師匠と三遊亭萬橘師匠の二人会の第三弾である。毎回、チラシのヴィジュアルに凝っているのは、さすが演芸を主たる戦場にしているカメラマンならではで、今回は選挙ポスター風なのが面白い。

兼好、萬橘両師匠には、古典と新作を一席ずつ演じることが毎回依頼されていて、これもまた普段は新作を演じることがほとんどないお二人にとって、落語ファンには嬉しい二人会となっている。今回は兼好「やかんなめ」「表情滑走娘」、萬橘「親の指」「藪入り」。その中でも、兼好師匠の「やかんなめ」がとても印象に残った。

「やかんなめ」というと、僕は喜多八師匠が思い出深い。また、小三治師匠の高座も絶品だった。柳家というイメージが強かったが、三遊亭の兼好師匠の「やかんなめ」もまた良い味わいだった。

この噺で大好きなのは、あなたの禿頭を舐めさせてほしいと、癪で苦しむおかみさんを助けるために伴の女中が必死で懇願するところ、およびそれを戸惑いながら、怒ることもできず、最終的には受け入れる侍の心の優しさである。脇でゲラゲラ笑っている伴に取れていた可内を叱りつけながらも、命にかかわることなら、自分のツルツルの禿げ頭が役に立つのならばと許す。

ここの部分、「戸惑いながらも、怒ることもできず」「心優しい侍として許す」侍の対応の台詞と表情。小三治、喜多八も良かったが、兼好師匠も負けないくらいに可笑しかった。この噺は聴き手も爆笑するのではなく、フッフッと笑うのが良い。癪で困っているおかみさんを救うために、斬り捨て御免を覚悟で女中が願っているのだから。

兼好師匠の侍で、とても印象に残ったのは、禿げ頭をベロベロに舐められ、でも、それによっておかみさんが助かり、良かった良かったとおかみさんと女中が去ったあとである。歯型ができるまで夢中に舐められた頭をさすりながら、可内だけでなく、禿げ頭の侍本人までもが、ハッハハと笑ってしまうところである。

心優しい侍に人柄がよく出ていたと思う。禿げ頭が癪に合い薬として役に立つなんて…と自分でも可笑しくなったのであろう。恥辱と思わず、善行をしたと満足したのであろう。その、思わず笑ってしまう侍が何とも愛おしかった。