【プロフェッショナル 生花店主・東信】命の花、心で生かす(5)
NHK総合の録画で「プロフェッショナル 仕事の流儀 生花店主・東信」を観ました。(2017年8月28日放送)
きのうのつづき
世界中からオファーが舞い込む花屋、東信。だが、新たに舞い込んだ依頼は、とりわけ試されるものだった。
世界中の方から認められている先生。特別な花で、気持ちのこもった花で、しっかりと送りたい。
昨年(放送当時)亡くなった演出家の蜷川幸雄さん。生前、東の花を高く評価し、その縁で告別式の花も東が生けた。一周忌もやってほしいと遺族から依頼されていた。
1年経って、もう少し心を鎮められる、魂が少しでもフッと昇華されるように優しい気持ちで花を生けられたら。
だが、この後、思わぬ窮地に追い込まれることを東は知らなかった。
一周忌まで、あと4日。東は長野県中野市の生産者を訪ねた。美しく存在感のあるシャクヤクは、世界のニナガワに相応しい。一周忌のメインに据えようと考えていた。300本の最上級のシャクヤクをあえて蕾の状態で仕入れた。しかし、本当の勝負はこれからだ。
東が言う。
4日後に一番良いコンディションにしなきゃいけない。咲きすぎても駄目だし、一番良い状態、散る寸前で(一周忌の)会が終わる。その瞬間、コンディションもあるので、そこをしっかりと見極めながら。この4日間の勝負です。
店に戻ると開花調整に入った。まずは水をたっぷり飲ませる。日光が当たる部屋に置き、開花を促す。シャクヤクは咲き始めると一気に満開になり、すぐに枯れてしまうため、調整が特に難しい。この時点で、若干咲き気味。
冷蔵庫で冷やして、少し開花をコントロールします。咲かないより、咲きすぎる方が怖い。
少しでも咲きすぎたものは冷蔵庫で開花を止める。だが、一周忌まであと2日。土砂降りの雨になった。
一日中雨で、気温も低かったから、思いのほか咲いてないな。気持ち、焦っている。
シャクヤクの開花が遅れ始めた。東が蕾を撫でるように触りだした。
シャクヤクって、蜜が強いので、花びらが咲くときに蜜に引っ掛かっちゃうので、これを手で取っているんです。あした、20℃、25℃になってくれて、陽がカンカンに照ったら全然問題ないんだけど。このままの天気だったら、ちょっとまずいな。
東はシャクヤクに付きっきりで、蜜を拭き続けた。
だが、翌日も太陽は姿を見せない。
この天気は想定外です。晴れると思っていた。気温が上がらなかったのは大きい。陽も照らない。ちょっと焦っています。やばいと思って。
前日にも拘わらず、300本のうち半分がまだ蕾の状態。咲かせてあげられなければ、花の命が無駄になる。ここで踏ん張れなければ、花屋がすたる。
東が言う。
今の自分はしっかり生きられているか。もう一回、自分は立ち返って何をすべきか。完璧を求めても、完璧になれないことがほとんど。そこはとにかく、やれることは全部やっておこう。花も応えてくれる。
東がガスコンロを取り出した。沸騰した湯にシャクヤクを浸ける。熱湯で茎にたまった空気を押し出し、水を吸いやすくする。さらにストーブを炊き、温室を作る。高温と高い湿度で開花を促す。
やれることはやった。あとは花を信じる。
当日の朝。シャクヤクはどうか。
オッケー!よし!いけます。勝負になりますね。
花は見事に東に応えた。
全部挿したい。全部入れたい。
ひとつたりとも命を無駄にしない。東は生けていく。時間のある限り生ける。
東が花を。花が東を輝かせていた。満開の舞台となった。
シャクヤクもすごくいい。狙った通りの開花になったので、十分に魂を鎮めるいい作品になったんじゃないかな。
東信にとって、プロフェッショナルとは。
信念を持って、仕事を取組み続けることだと思います。いろいろなものを背負い続けること、そしてまた常に走り続けていくことがプロフェッショナルだと思います。
東さん、最後のお言葉を僕も胸に刻みたいと思います。ありがとうございました。