【プロフェッショナル 生花店主・東信】命の花、心で生かす(4)

NHK総合の録画で「プロフェッショナル 仕事の流儀 生花店主・東信」を観ました。(2017年8月28日放送)

きのうのつづき

東は玄界灘に面した福岡県福津市で生まれた。3人兄弟の末っ子。近所でも評判のヤンチャ坊主だった。高校卒業後、ロックにのめり込み、バンドで売れてやろうと上京したが、鳴かず飛ばず。

アルバイトを探して、偶然目にしたのが花屋の募集だった。軽い気持ちで働きだしたが、すぐさま、花の虜になった。落ち込んでいる人すら笑顔にする花の力に魅せられたのだ。

東が振り返る。

衝撃だったですね。自分がお金をいただいて、お花を作っているのに、「ありがとうございます」、人によってはものすごく感動して、ウルッと泣かれられたりする。お花屋ってそういう仕事なんやな。

一心不乱に花を学び、わずか2年で小さな店を任された。けれど、花屋は綺麗ごとだけではなかった。花の一本一本を大切にしたいのに、売れ残れば廃棄。捨てる花を生かそうとすれば、古い花から売らねばならなかった。

さばいていかなきゃいけないし、そこに少し嘘が出たりとか、「古い花売っちゃっているんだな、自分」みたいなのは、ちょっと嫌だなと。「俺は花屋です」「世界一の花屋になってみせます」みたいなことを言いたかった。

いろいろ考えだしたら、しょうがない。とにかくやってみて、失敗してもいい。突破していく勇気がないと駄目。

25歳にして、銀座に自分の店を出した。客の依頼を受けて花を仕入れ、世界に一つだけの花束を作るというフルオーダーメイドの花屋。これで無駄に捨てる花は無くせると思った。

が、甘かった。肝心の注文が全く入らない。

「何屋ですか?」「俺、花屋です」と言って、「へえ」とか言って、「でも、花無いじゃない」「何言っているの」みたいな。

店頭に花がない花屋なんて誰からも相手にされなかった。売り込みにも奔走したが、開店一カ月の売り上げはわずか5万円。運転資金は瞬く間に底をついた。夜は運送会社でアルバイトをし、何とか食いつなぐ日々。でも、待てども待てども大きな注文は入らない。心は折れかけていた。

東が振り返る。

もう追い込まれてますよね。だけど、辞められなかった。とにかく続けていくことしかできないから。自分の生活は壊れていくし。一生懸命に本当に死に物狂いですよね。

東は時間を見つけては生産者を訪ね、どうすればその花を美しく長く生かせるか、研究を重ねた。

そんなある日。一人の女性がやってきた。平澤鈴子さん。見舞いに持って行く花をどこで買うか迷っているという。東は頭を下げた。「私に作らせてください。お気に召さなければ、お代は結構です」。もう後がない。無心で花と向き合った。その花は一瞬にして平澤さんの心を掴んだ。

平澤さんが振り返る。

「ええー」って、息をのみました。「こんな素敵なお花」って言ったきり、しばらく声も出ませんでした。見たことがなかったから。

花は美しいばかりではなかった。東が丹念に手入れした花は、病室で3週間にわたって咲き続け、病院の噂になった。口コミで評判は広がり、徐々に注文が入るようになった。

東信という花が咲いた。あれから15年。

この日、東は格別の思いで花と向き合っていた。平澤さんの結婚50周年を祝うサプライズの花。娘さんから依頼されていた。

すっごい自信なくしていたからさ。食えないしさ。お客さんいないしさ。ありがたいですよね。気合いを入れてやらないとね。

あの頃を思い出しながら、一本一本花を挿す。そして、自ら届ける。

平澤さんは届けられた花束を手にして、「嬉しい」と涙を流した。

そして、東も涙がこみあげてくるのを堪えながら喜びを語った。

喜んでもらうためにやってますから。ダイレクトに聞くと、結構グッときます。きょうみたいな経験、これがあるから続けられると改めて思います。

今のレベルじゃなくて、もっと高いレベルを目指して、日々やっていかなきゃいけない。嬉しいのと同時に、もう一回背筋がしゃんとします。

つづく