【プロフェッショナル 雑誌編集長・山岡朝子】思い込みを捨て、“思い”を拾う(4)

NHK総合テレビの録画で「プロフェッショナル 仕事の流儀 雑誌編集長・山岡朝子」を観ました。

きのうのつづき

この日、山岡は取材のため押し花展覧会へ出掛けていた。女性誌ナンバーワン、飛躍的な成長を遂げた今も、新たなコンテンツを求め、奔走している。でも、低迷する雑誌を立ち直すまでは、常に失敗と背中合わせだった。

山岡が語る。

編集長って、やっぱり雑誌の顔なので、うまくいかないからって、「うまくいってません」みたいな顔をしているのは良くない。水面下で足をバタバタさせて、溺れかかっていても、ドンと構えて元気そうに、楽しそうにしていないと。

大阪で生まれ育った山岡。小さい頃は文学全集を読破するほど、本が大好きな少女だった。大学卒業後、主婦と生活社に就職。センスは抜群。29歳で編集長に抜擢され、その後、7つの雑誌で創刊や立て直しをおこなった。

43歳のとき、低迷していた現在の会社にヘッドハンティングされ、転職。入ってみると、状況は想像以上に深刻だった。

任されたのは20年以上続くシニア向けの雑誌。介護や年金など、老後に関わる重要なテーマを扱い、一定のファンはいたが、購読者は減り続け、過去最低を更新していた。低迷をめぐって、社内では部門同士が対立していた。

山岡が振り返る。

会社全体がすごく暗くて、このまま下がっていったら、会社は終わっちゃうんじゃないかくらいの。悲壮感が漂っていました。

企画会議に出たとき、気になることがあった。

「これやろう。あれやろう」って、どんどん決まっていくんですけど、その場で全く何を根拠に決めているのか、分からなかった。そこに読者目線みたいなものが感じられなかったんです。

達観しているように見えるシニア世代だが、本当は何を考えているのだろうか。山岡が目をつけたのは、社内にあった膨大なデータ。数千枚に及ぶ読者ハガキ。調査を専門におこなうチーム。他の出版社にはない強みだった。

それを生かし、美容に関して調査をすると、皺やシミより髪の悩みが断然多いという意外な事実がわかった。リニューアルの特集は「髪の毛」でいく。そう決めて、編集部に伝えた。しかし、その方針に一部のメンバーから反対意見があがった。

髪の毛は“人生の一大事”ではない。

そんなテーマはこの雑誌には相応しくない。

山岡は振り返る。

怖かったです。もしかしたら、相手が言っていることが正しいかもしれないと思うじゃないですか。部数が下がっているものを、さらに下げてしまうかもしれない。本当にそうしたら崩壊してしまうから。

自分が経験していない読者をターゲットにするのは山岡も初めてのこと。たったひとつの頼りは読者の声だった。

アンケートを読んでいて、皆さん本当に深刻に悩んでいらっしゃるって判ったもので。出掛けるのが嫌だとか、人に会うのが嫌だとか、いうぐらいに悩んでいる人が多くて。これは“人生の一大事”だよ、って。

迷いを振り切り、特集は「髪の毛」でいくことを決意。白髪をおしゃれに見せるグレイヘアを特集すると、これまでにない大反響となった。でも、山岡はここで満足しなかった。対立していた通販部門に、グレイヘア用の商品を開発できないかと掛け合った。

対立するのではなく、読者のために、お客様のために、皆で何が出来るのか、一緒にやろうよと。

グレイヘア用のヘアカラーが実現すると、読者の悩みに応える新たなヒット商品となった。山岡の中で、目指すべき指針が出来上がっていった。

山岡は言う。

65歳のA子さんはどう思うだろうか。この言われようは、A子さんにとって嬉しいのか、嬉しくないのか。やっぱり、A子さんの役に立ちたいと思うんですよね。明るい気持ちで毎日が過ごせるように、悩みがあれば解決して、月に一回届く、その一冊の雑誌が生涯の生活の中にある伴走者でありたいと思っているんです。

つづく