【プロフェッショナル 雑誌編集長・山岡朝子】思い込みを捨て、“思い”を拾う(5)

NHK総合テレビの録画で「プロフェッショナル 仕事の流儀 雑誌編集長・山岡朝子」を観ました。

きのうのつづき

9月。12月号の取材が本格的に動き出していた。メインの特集は「終活」。毎年特集する人気企画だ。だが、何回も扱ったテーマだけに、飽きられる恐れもある。

山岡は言う。

終活の特集で、できれば「やること」をあまり増やさずに、むしろ減らしてあげて。ここはそんなに頑張ってやらなくてもいいんだなっていうメッセージが出せたら。

事前の調査で、終活は途中で挫折する人が多いことを突き止めていた。

編集部員が言う。

片づけとエンディングノートって、終活で皆が最初の一歩でやりやすいけど、最初の一歩で結構つまづく人が多い。

今回は最低限必要なことに絞った、挫折しない終活を提案できないか。この特集で、新規の読者を1万人以上増やそうという目標が掲げられていた。購読者が増え続ける今、編集部への期待はますます高まっている。

山岡が語る。

右肩上がりを期待されるって怖いことだし、恐ろしいことだし、苦しいことだし。皆もプレッシャーを感じていると思うけど、そのことに足を引っ張られると、新しいことが出来なくなるから。目標何万件みたいに、出てきますけど、それは私が背負うから、皆にはどんどん外を飛び回って、たくさんの新しいことを集めてきて、面白がって作ってほしい。

お金を払ってでも読みたいと思う企画をどう作るか。3000枚の読者ハガキにヒントを探す。

エンディングノートならぬリレーノートをつけているという読者を見つけ出した。畑の管理方法や、寺へのお布施、子どもの伝えたいことを簡単に書き留めていた。つぶやくように。「気軽にやればいいのよ。そうしないと続かない」と、その読者は言っていた。挫折しないで出来る提案が一つできあがった。

締め切りまで一週間。初期段階の原稿があがってきた。山岡が見出しをチェックする。終活は人生に関わる大事なテーマ。山岡はいつも以上に慎重になっていた。

遺言のページを確認しているときだった。「私たちは何を提案しているのかしら?」。指摘したのは、この見出し。

財産のあるなしに関係なく、家族がもめるのを防いだり、相続をスムーズにするのが「遺言書」です。

ここからは、何の提案も伝わらない。ページには、遺言を残した方がいい人の条件が紹介されていた。条件にない人には必要のない情報だと思われる恐れもある。

山岡が強く言う。

新聞広告を見て、「遺言書の賢い書き方」って書いてあったから買ったのに、「ケースバイケースです」と言われたら、期待に応えられない。

今や読者は38万人。全ての人に当てはまる簡単な答えはない。だからこそ、山岡は一人一人の人生に何度も思いを馳せる。

どこまで寄り添えるかっていうのは、すごく大事にしているんです。人によって救いになったり、楽しみになったり、それが積み重なって、日本の女性は年をとっても月に一回届く雑誌があるから良かったねっていう。そういうところまでいけたらいいなと思う。

締め切りが目前となった。山岡は3日間かけ、原稿200ページをくまなくチェックする。読者にしっかり寄り添えているか。細部にまで目を光らす。

2日目の夜。山岡の手が止まった。見ていたのは、片づけのプロが教える整理術のページ。キッチンの棚に必要な書類をまとめて収納する技を取材していた。

今回の特集は終活に挫折したくない読者に贈るもの。冒頭から専門家の凄さが際立ってしまえば、読者の心は離れる。そこを指摘した。

締め切り最終日。担当者は急ピッチで修正を進めていた。ベテラン編集者の腕を信じ、山岡は待つ。新たな原稿には、以前に押し入れなどにアルバムや家計簿が溜まり、整理できなかった失敗談が加えられていた。これなら、65歳のA子さんも納得してくれるはず。

そして、また一冊、大人の女性たちを応援する雑誌が完成した。

一緒に歩いて、一緒に走る感じがうまく表現できたかなと思います。

終活の特集。取り掛かりやすく、挫折しにくい工夫を35ページに凝縮させた。

翌日、山岡は新聞広告の修正を進める。過去最高を届けるために、山岡は最後まで考え尽くす。

山岡にとって、プロフェッショナルとは?

たとえ、うまくいかないときでも、新しいやり方とか、新しい考え方を探して、とにかく前へ進める人。それを笑顔でできる人。

山岡さん、ありがとうございました。僕も残りの人生を、笑顔を忘れずに、前へ進んでいこうと思います。