【プロフェッショナル 書店店主・岩田徹】運命の一冊、あなたのもとへ(1)

NHK総合テレビの録画で「プロフェッショナル 仕事の流儀 書店店主・岩田徹」を観ました。(2018年4月23日放送)

北海道砂川市にあるいわた書店は、全国から注文が殺到し、「3000人待ちの本屋」と呼ばれている。店主の岩田徹さん(70)が15年前にはじめた試みが注目されているのだ。「1万円選書」。ホームページに応募してきた客一人一人に1万円分の本を選ぶ。「今の自分にピッタリ!だ」「岩田さんが本を選ぶことで私を救ってくれました」。客からは感激の声が寄せられる。

岩田が言う。

「こういうふうに生きなさい」とかっていうことは、絶対おこがましくて言えないけれども、いろんな人の人生を垣間見ることができるチャンスは本の中でしかないんでね。

廃業の危機に何度もさらされても立ち直ってきた町の本屋。「日本一幸せな本屋なの。儲からないけどね」。北の大地の書店店主の静かで熱い日々に密着した番組だった。(以下、敬称略)

朝5時30分。岩田の仕事はもう始まっている。書店店主の最も重要な仕事、読書。書店に並べる本を探すため、1時間以上読む。

この時間しかないんですよ。まだ家族が誰も起きてこないから集中して読める。

出版時期やジャンルにこだわらず、面白そうであれば選り好みせず、幅広く読む。岩田はこうして年間200冊、生涯では本と雑誌合わせて1万冊読んでいるという。

開店30分前。届いた本を店に出す。多くの書店の場合、並べる本は問屋が薦める新刊や売れ筋のものだ。ところが岩田はそうした流行りの本はほぼ置かない。自ら読んで面白いもののみ、並べる。

9時過ぎ。店の営業をしつつ、いよいよ1万円選書の仕事をはじめる。1万円選書は年に数回、ホームページで募集し、6000件余りの応募が集まる。その中から抽選で月に100件ほどの選書をおこなう。

岩田がこの日選書するのは、埼玉に暮らす黒木泰子さん(54)の本。

黒木さんが言う。

本屋さんの店頭でこれがお薦めとかって、読んでも全然面白くなかったりとか、っていうのないですか?すごくお薦めに載っているのに、面白くなかったりとか。(岩田の選書で)いい本に出会えるかなっていう期待が大きかったです。

黒木さんは父親を2月に病で亡くした。その看病で、しばらく本から遠ざかっていた。本好きの夫と一緒に読める岩田の選ぶ本を心待ちにしていた。

岩田は応募者の読書歴、現在の境遇などから人物像をあぶりだし、1時間ほどかけて選書していく。1万円選書の料金は書籍代と送料のみ。手数料は取らない。丸一日選書に費やして、5人が限度。利益は1万円ほどだ。

岩田が黒木さんに選んだのは11冊。ふだん黒木さんが手にしなさそうな海外作品や歴史小説、そして詩集など。

岩田が言う。

24歳の娘さんがいるということと、ご両親の一人が末期がんということで、こちらの詩集ですね。自分たちの過去、現在を振り返ってもらいたい。

岩田が考える町の本屋の役割は、新たな世界への案内人。

たくさん売れていないような本だけど、面白い本があるよってのを教えてあげたいよね。「私の気持ちなんて誰も分かってもらえない」なんて思っている人がほとんどなのに、「私と同じことを考えている人がいるんだ」「同じようなことで悩んでいる人っているんだ」ってのは、本の世界で、本屋とか図書館でしか出会えないことかもしれない。

3日後、黒木さんの元に本が届いた。

(自分では)全然選ばなかった本。幅広いですね、本の選出が。

まず手に取ったのは詩集。「手から、手へ」(詩:池井昌樹、写真:横田正治、企画・構成:山本純司、講談社刊)。

どんなにやさしいちちははも おまえたちとは一緒に行けない どこかへやがてはかえるのだから やさしい子らよ おぼえておおき やさしさは このちちよりも このははよりも とおくから受け継がれてきた ちまみれな“ばとん”なのだから てわたすときがくるまでは けっしててばなしてはならぬ

黒木さんが言う。

(父が亡くなった)今の時期にっていうんで、きっと選んでくれた本なんだろうなって思います。すごくいい詩です。よくこれを選んでくれましたね。年取ったら、娘にも最後にあげたいですね。この詩が“ばとん”ですよね。

つづく