立川志の輔「大河への道」10年の年月を経て、進化する長編新作落語は後世への遺産となる

PARCO劇場で「志の輔らくごinPARCO」を観ました。(2022・01・07)

1年半ぶりに立川志の輔師匠の高座を聴いた。一昨年8月の三鷹市公会堂の独演会で「みどりの窓口」と「抜け雀」以来である。その年は2月にPARCO劇場のこけら落とし公演があって、「志の輔らくごinPARCO」を観ているのだが、それに関して言うと2年ぶりである。

つまり、コロナ禍によって、志の輔師匠の落語をこの2年間で5席しか聴けていなかったことになる。これは皮肉なことだが、それだけのインターバルが空くと、以前は何度も聴いていた噺も新鮮で、実に面白かった。

この興行ではネタ出しされていた「大河への道」の前に2席、新作落語を演じられたのだが、どちらも「元気にしてた?お久しぶり!」という感じの演目で、実に面白く、笑いが止まらなかった。

それだけ、志の輔師匠の新作落語というのは完成度が高くて、全国どこで演ってもお客さんに笑ってもらえる内容であるということだ。現代社会に生きる庶民感覚を描き、そんな日常に「ありそうなこと」をしっかりと落語というパッケージに包んでいる。そういうことって、あるえるよね、わかる、わかる、という感覚。それが「志の輔らくご」なのだろう。

さて、トリの「大河への道」である。1時間は確実に超えていた、おそらく80分くらいあったのではないか。力作である。日本で初めて地図を作った伊能忠敬をテーマにした作品だ。

2011年、PARCO劇場で初演。同年8月、テアトル銀座で再演。2016年に再びPARCO劇場で演じられ(確か、PARCO再建築のため一時閉館するお別れ公演だった気がする)。そして、今年、2022年にPARCO劇場で再々演された。今年5月に映画化が決まった記念上演という意味合いもあるようだ。僕はこれ以外に2014年に横浜にぎわい座でも聴いているから、今回6回目ということになる。

志の輔師匠の凄さは、「褪せない」ということである。冒頭にも書いたが、ある一定の年数経てまた聴くと、新鮮に聴ける。それは聴き手の問題もあるだろうが、志の輔師匠が噺を常にリニューアルしているという努力によるところが大きいのではないか。

例えば、初演で伊能忠敬の少年時代のキャスト候補は鈴木福くんだったが、10年経った今、福くんは成長しており、少年時代のキャスト候補は別の子役に変更されている。

志の輔師匠が毎年恒例にしている本多劇場の「牡丹燈籠」にしても、赤坂ACTシアターの「中村仲蔵」にしても、より多くのお客様に観てほしいという気持ちもあるだろうが、毎年リニューアルを重ねているというのも人気の秘密のような気がする。

「地球の大きさを知りたい」と、55歳から日本全国を歩いた男の物語は、やがて古典落語のような後世に遺る作品になるだろう。