春風亭一之輔「らくだ」とにかく長いが、とにかく凄い。「迫力」が間断なく続く素晴らしさ。

本多劇場で「下北のすけえん」を観ました。(2022・01・05)

開口一番の3番弟子の前座、いっ休さん「初天神~団子」に続いて一之輔師匠が高座に上がり、マクラを振らずに「初天神」を続けた。飴~凧まで。そして、「凧はこうやって揚げるのがいいな」と言いながら、「マクラ代わりの初天神でした」と言った。一之輔師匠の得意ネタであるけれども、弟子の高座を見て、自分も演りたくなったのであろう。そして、さらなる探求心を持って演じる姿に、この人の凄さを見たような気がする。

さらに「三方一両損」を演じて、中入り。その後の「らくだ」がものすごい出来だった。時間を計っていないからわからないが、おそらく1時間は超えたであろう。というか、尺の問題ではない。とにかく長いのだが、とにかくすごいものを見たという感想である。

丁の目の半次がらくだの死体を発見するところから、願人坊主が火葬されてしまうサゲまで、実に丁寧。丁寧というと、おとなしく聞こえるかもしれないが、一つ一つの場面が激しいのである。惹き付けられるのである。彫りが深いと言ったらいいのだろうか。

丁の目に命令されて、屑屋が月番、大家、八百屋と長屋を回る件。いかに、皆がらくだから迷惑を被ったか、いかに嫌われていたか。それは当然のことで、いかにらくだが乱暴者の悪い奴だったかを屑屋が回る先々で聞かされ、そんな奴の弔いなんか、やんなきゃいいのにと思う。

大家のところに行って、丁の目が死人にかんかんのうを踊らせるとところも、これでもか!という凄味があった。大家さんの慌てぶりもすごいが、大家女房が気を失うのもわかる。一時は「ばあさんまで死んだか」と思わせる迫力だ。

屑屋が3軒を回って、戻ってきて、丁の目が酒を勧める件。ここも本当は酒乱の屑屋が一杯目、二杯目、三杯目と勧められて嫌々飲んでいるうちに、丁の目との立場が逆転していく様子が丁寧だ。四杯目は「もう帰った方がいいんじゃないか」と言う丁の目が逆に震え上がるような勢いで屑屋が「飲ませないというのか!」と食ってかかる迫力に圧倒される。

らくだには色々と情け容赦ない買い物をさせられたと、屑屋は長寿庵の丼ブリの揃いや、左甚五郎が彫った蛙のことを愚痴る。「兄貴分のあんたの教育が悪いからだ!」。長屋が香典を出すきっかけになった長さんの言葉「死にゃあ仏」について、「何が仏だ!こいつは、地獄へ落ちるんだ!」と座った目で叫ぶ屑屋が怖い。怯えていた屑屋に、逆に丁の目に「兄貴」と呼ぶようになる迫力。何度も迫力という言葉を使っているが、そう、この日の一之輔師匠の「らくだ」の迫力は格別だったのだ。

香典で酒三升買ってきて、屑屋と丁の目の二人で空けちゃうんだから、酒乱はどこまでも底なしだ。

大家さんから「お前は玄関じゃなくて裏へ回れ」と言われていたほど、登場人物の中で一番下に見られていた屑屋の久さんが、最後は一番強い立場に立ってしまうほどの酒乱を描いた「らくだ」。大熱演だった。