【吉例顔見世大歌舞伎】「寿曽我対面」十世坂東三津五郎七回忌追善狂言、巳之助が五郎を好演

歌舞伎座で「吉例顔見世大歌舞伎」第二部を観ました。(2021・11・10)

「寿曽我対面」は、十世坂東三津五郎七回忌追善狂言である。2001年に三津五郎襲名で曽我五郎時致を勤めた所縁ある作品を、故人を偲ぶに相応しい顔ぶれで演じた。特に、子息である巳之助が五郎を好演したのが何とも印象的だった。

工藤祐経の館。曽我五郎と曽我十郎の対照的な性格と行動が見ものだ。小林朝比奈に呼ばれて、工藤の前に現れた兄弟。行儀作法を知らぬ者と嘲り笑う諸大名。兄弟の容貌を見た工藤は、彼らが河津三郎の縁者と覚り、河津を闇討ちした折りの様子を語るときの、曽我兄弟の悔しさはいかばかりか。

兄の十郎と共に河津三郎の忘れ形見と名乗りを上げた五郎は、血気に逸り、父の仇である工藤に打ち掛かろうとする。それを冷静な十郎は押しとどめる。周囲が兄弟の無礼を咎めると、それを宥めた工藤は兄弟に盃を授けることにする。

そんな盃を受けられるか!というのが本心だろうが、十郎は泰然とした態度で盃を受ける。だが、一方の五郎はそうはいかない。堪え切れず、盃を割り、三方を押し潰してしまう。これをまた十郎が制する。

工藤は言う。頼朝の信任を得て、大大名になった自分を討つことは叶わない。実父の仇を討つよりも、養父の曽我太郎祐信が紛失した源氏の重宝友切丸を詮議するのが先決だろうと諭す。

と、兄弟の家臣の鬼王新左衛門が友切丸を持参する。おお、これにはさすがの工藤祐経も何も言うことができない。紛れもない本物なのだ。そこで、頼朝から命じられた富士の巻狩りでの総奉行に任を遂げた暁には潔く討たれようと覚悟を決めるのであった。

血気盛んな荒事の曽我五郎。冷静沈着な和事の曽我十郎。そして、仇討に対して逃げも隠れもしないで、受けて立つと後日の約束をする工藤祐経。絵面の見得の幕切れで、祝祭劇らしい華やかな芝居となった。

工藤左衛門祐経:尾上菊五郎 曽我五郎時致:坂東巳之助 曽我十郎祐成:中村時蔵 小林朝比奈:尾上松緑 八幡三郎行氏:坂東彦三郎 梶原平次景高:坂東亀蔵 化粧坂少将:中村梅枝 秦野四郎清重:中村萬太郎 近江小藤太成家:河原崎権十郎 梶原平三景時:市川團蔵 大磯の虎:中村雀右衛門 鬼王新左衛門:市川左團次