三遊亭兼好「王子の狐」お狐さまは化かすどころか、信仰の対象として崇める存在
国立演芸場で「けんこう一番!三遊亭兼好独演会」を観ました。(2021・11・12)
兼好師匠の「王子の狐」が良かった。落語の中に出てくる狸はどこか可愛げがあって、憎めない存在だけど、狐はお稲荷様として祀られるくらいだから、ちゃんと信仰しなくちゃいけない教訓めいたものが付随する。「紋三郎稲荷」しかり。それと、女性に化けることが多くて、ちょっと色っぽい。「安兵衛狐」なんかもそうだ。
「王子の狐」は主人公の男は狐が女に化けている現場を目撃して、その女を騙しちゃって、無銭飲食して逃げてしまう。悪い奴だ。その男の中では、狐は人間を騙しているという思い込みがあって、逆に騙しちゃおうという発想になったようだが、それはあくまでイメージなのだ。
よく女狐みたいな奴、という表現があるけど、これは悪女を狐に喩えたものだが、狐はそんなに悪い動物ではないはずだ。実際、お稲荷様として信仰しているくらいだから、霊験あらたかな動物のはずである。女の腐ったような奴、という表現があるけれど、これほど女性を蔑視した言葉はない。それと同様に、女狐みたいな奴は、人間としては悪い奴かもしれないが、狐にとっては可哀想な言葉だ。
無銭飲食した男も悪いが、被害者である女に化けた狐をとっちめてしまう扇屋の番頭はじめ店員も良くない。実際、旦那が帰宅して、その話を聞いたら、烈火のごとく怒っている。この店が繁盛しているのも、王子稲荷のお陰。その狐はお使い姫だと諭す。
無銭飲食の男も帰宅すると、兄貴分に「狐はしつこいぞ。七代祟られる」と言われ、ハッとする。なんでも表面的なイメージで捉えてはいけないぞ、という戒めである。そして、おはぎを手土産に持って翌日に謝りに行くが、「どうせ馬糞だ」と取り合ってくれない。一度失った信用は取り戻せない。
ところで、扇屋を出るときに男は玉子焼きを土産に買って帰るが、王子に実在する扇屋は料理屋はやっていないが、玉子焼きの名店として知られる。なんでも一子相伝の釜焼きだそうで、購入には予約が必要だとか。
そんなことに思いを馳せながら、お稲荷様を大切に信仰する教えが含まれた「王子の狐」を堪能した。