【「お富与三郎」車読み】波瀾万丈な人間ドラマを5人の講談師で一気に読み切る醍醐味(下)
お江戸日本橋亭で「講談土曜特選会 お富与三郎車読み」を観ました。(2021・10・23)
きのうのつづき
「与三郎殺し」一龍齋貞心
与三郎は実家の日本橋横山町の伊豆屋へ。棟梁の八右衛門に会う。「両親に会いたい」と言うと、「きょうがお母さまの百ケ日です」と言われ、言葉を失う。「父によろしくお伝えください」と言って、母が埋葬された深川の浄真寺に参る。
と同時に、「お富はどうなったか」を棟梁に訊くと、「将軍家のおめでたがあり、御赦免になった。身元引受人は品川の観音久次という人だという噂だ」と知る。
品川を訪ねた与三郎。お富は確かに観音久次宅にいた。運命の再会。お富はこの性分だから、博奕打ちの姐さんに収まって、夫婦同様の暮らしをしていると言う。
与三郎は積る話もあったが、くたびれた。言葉に甘えて、ぐっすりと寝込んだ。目を覚ます。お富が勧める酒。気を許す。ウトウトして、また寝込んだ。お富に会いたい一心でここまで来た。安心感もあったのだろう。
だが、お富は根からの悪人だった。お上に追われている与三郎と観音久次を天秤にかければ、どうしたって今の安定した生活がいいに決まっている。細引きを取り出した。片方は柱に巻き、もう片方は与三郎の首に巻きつけた。私を思ってくれるのは嬉しいが、毒を食らわば皿まで。堪忍しておくれ。与三郎はあえない最期を遂げた。
死骸は葛籠にしまう。久次の子分の六蔵が、親分からの遣いだと言って50両を持ってきた。ゴミの処分を手伝ってくれ、と頼み、六蔵とお富は一緒に葛籠を運んで、御殿山の万年溜まりに放り込んだ。その後、お富は六蔵を井戸の中に突き落とし、殺害。どこまで極悪非道な女なんだ。
天網恢恢疎にして漏らさず。井戸の中の六蔵も、万年溜まりの葛籠の中の与三郎も、南町奉行が見逃すはずがない。お富の仕業ということが判り、召し捕り。市中引き回しの上、磔となった。享年三十九。
観音久次も三宅島に流刑。与三郎は母が眠る浄真寺に埋葬された。享年三十七。
ざっと車読みで発端から最後まで聴くと、「お富与三郎」というストーリーのダイナミックさがよく伝わってきた。これを細かく割って、何日間にも分けて連続読みで聴くのも、また楽しいのだろうなあ。講談は本当に面白い。