【九月大歌舞伎】「お江戸みやげ」田舎の純朴な後家さんの恋心に思わずキュンとなる
歌舞伎座で「九月大歌舞伎」第一部を観ました。(2021・09・20)
「お江戸みやげ」に、田舎の純朴な女性の恋心を見て、嬉しい気持ちになった。
結城から毎年江戸に来る呉服の行商、お辻とおゆうの二人組は、どちらも夫に先立たれた後家である。お辻は倹約家で几帳面なタイプ、おゆうは鷹揚で大らかなタイプなのだが、これが逆転してしまうのだから、女の恋心はわからない。
江戸のみやげに芝居見物でもしようと、阪東栄紫が演じている「櫓のお七」を観劇すると、すっかり感動したお辻は栄紫に一目惚れしてしまう。面会を希望し、部屋に案内されるも、もじもじ。その女心がいじらしい。
役者に会うには祝儀もはずまなきゃいけないし、飲食代だってかなりかかるのだが、普段倹約家のお辻の方がこういうときになると鷹揚になってしまうのだから、わからないものだ。おゆうの方が「大丈夫か?」と心配する始末だ。立場が逆転である。
栄紫には恋人がいた。お紺。常磐津の師匠の文字辰の養子だが、どこかのお大尽の妾にしようとされている。栄紫はお紺を救って、一緒になりたいと思う。匿っていたが、とうとう文字辰に見つかってしまうと、20両払えば二人の仲を許してやると文字辰は言う。
その様子を見てしまったお辻は何とか好きな栄紫を助けてやりたいと思う。お紺との恋を成就させてあげたいと思う。そこで、お辻は持っている金の13両3分2朱を使ってくれと渡す。何といういじらしさよ。その素直な心に、栄紫も感動してしまう。
男に惚れるということはそういうことなのだ。惚れた男が本当に好きな女がいたら、その女と添い遂げさせようと考えるのが本当の恋。駆け引きなんかじゃない。そう、純朴なお辻は教えてくれた。
最後の湯島天神の場。逃げる栄紫とお紺を助けようと、お紺を先におゆうが手引きしてやり、栄紫とお辻が境内に二人になる。お辻の計らいに礼を言う栄紫。お辻の心の内を察した栄紫は自分の襦袢の片袖を破り、お辻に渡す。これを自分と思ってくださいということか。
ほろ苦い恋の味。田舎の後家でも、女は女。お辻の気持ちはいかばかりか。大事な江戸みやげになった片袖をじっと掴んでいるお辻の気持ちに思いを馳せた。
お辻:中村芝翫 おゆう:中村勘九郎 阪東栄紫:中村七之助 角兵衛獅子兄:中村福之助 角兵衛獅子弟:中村歌之助 お紺:中村莟玉 鳶頭六三郎:中村松江 常磐津文字福:中村福助 常磐津文字辰:中村東蔵