【プロフェッショナル 動物写真家・岩合光昭】猫を知れば、世界が変わる(2)
NHK総合の録画で「プロフェッショナル 仕事の流儀 動物写真家・岩合光昭」を観ました。(2017年5月29日放送)
きのうのつづき
岩合は貴重な野生動物の撮影で世界を驚かせてきた。2003年に、謎に包まれていた野生のジャイアントパンダの撮影に成功。向き合った動物は優に1000種類を超える。厳しい自然の中で繰り広げられる生と死。その世界に引き付けられてきた。
岩合が語る。
彼ら野生動物というのは、僕たち人間が考える以上のものだと思うんですよ。そこが自然の世界の底知れないというか、見えない魅力なんですよ。
ときに自らの身に危険が及ぶこともある。だが、それでも撮り続ける岩合の心の中にあるのは、自然と動物への畏敬の念だ。
岩合は体調管理を怠らない。欠かさないのが、ランチの後の昼寝だ。動物が動かない時間を利用して自分も休む。
動物の時間に合わせて自分も体を動かすようにしてますね。動物と対峙するときに、動物っていつも100%じゃないと動けないような気がするんですね。100%って、僕たちにはとても無理かもしれないけど、それに近い状態にもっていくためには、やっぱり緩急をつけて休む時には休まないと。
そんな岩合さんが一番時間を割いているのが、ネコの撮影だ。どうしてネコなのか、その理由を明かしてくれた。
身近にいる動物、ネコがポーンと箪笥の上に乗ると、ハッと思うじゃないですか。すばらしいな、こんな動きするんだっていうのは、実は僕たちにもそういう力というのは体の中に秘めているんですよね。それが、野生だっていう僕の表現。それをネコによって呼び覚ましてくれる。それはとても現代の人には必要じゃないかと思って。
一番大切なのは人間も自然の一部であるっていうことなんですよね。それを思い起こさせてくれるのが、一番身近なネコだと思うんですよ。
雨のイタリア。午前6時半。岩合は「世界ネコ歩き」の撮影のためにそこにいた。世界各地のネコの姿をその土地の暮らしとともに映し出す番組。ネコだけでなく、暮らしからうかがえる背景も欠かせない要素になる。
岩合が語る。
ネコの動きがあれば撮るんですけど、ただ背景は苦慮しますね。困りますね。背景の処理の仕方だとか。どうしてもネコが動くから面白いって撮っていると、僕が望んでいるような、ネコがどこでどうやって暮らしているのか、生きているのか、生活しているのかっていう絵が作れなくなるんですよね。
北西の港町で岩合はネコを探しはじめた。目を付け、撮影したいネコがいた。ドン(5歳)。ボスネコだ。喧嘩が強く、活動範囲は広い。ドンを撮影することで、この町の空気を描きたい。だが、なかなか岩合が望む場所に行ってくれない。他のネコとは次々と距離を詰め、撮影を進め、至近距離での撮影に成功した。だが、ドンは距離が縮まらない。
残された撮影日数も限られている。3日目。「しばらくドンと二人きりにしてくれ」と岩合はスタッフに伝えた。しばらくして・・・岩合はドンと一緒に眠っていた。「ドンが寝ていたから、思わず私も寝てしまった」。そこには、リラックスしたドンの姿があった。カメラマンとして大切にしている流儀。「相手と“共振”する」。
岩合が言う。
やっぱり時間を共有しているわけですね。そうすると、動きにしても、全身全霊をもって一緒に揺れているような心持ちになると、相手も絶対通じてくるんですね。それはやっぱり、ネコも見ているんですかね。相手を。僕のことを。
自分が気持ちいいと、相手も気持ちいいし、相手が気分が悪いときは、こちらも機嫌が悪くなると思うんです。一緒になって時を過ごして、気持ちを共有しているというんでしょうか。共振というのがありますよね。なんか、波長が合うというか、そういうときって絶対にいいショットが撮れているんですよね。
夕方。海を町を見下ろす道をドンがゆっくりと歩いて行く。「教会の鐘の音。いい響きだね」。雄大な景色を背景にボスネコの風格を捉えたショットが撮影できた。
つづく