【プロフェッショナル 声優・神谷浩史】答えを求めて、声を探す(4)
NHK総合の録画で「プロフェッショナル 仕事の流儀 声優・神谷浩史」を観ました。(2019年1月7日放送)
きのうのつづき
神谷は新境地を求めて、新たな仕事に挑んだ。声優仲間たちと立ち上げた新感覚の朗読会である。
音楽や照明などの演出に加え、キャラクターをイメージさせる人物を配置。演技ではなく、声だけで進行していく新しい舞台だ。
神谷が意気込む。
どうせやるんだったら、まだ誰もやったことのないような、その結果としてまた違う自分の居場所が出来る。
模索し続ける声優の新しい活躍の場。
本番一カ月前。スタッフ10人の顔合わせが行われた。アニメ監督の水島精二がシナリオや全体の演技構成について声優たちをサポートする。
義賊的な詐欺グループが悪徳刑事を追い詰める物語だ。目指すのは新しいジャンルの舞台。俳優の演技を楽しむのではなく、あくまでも声優の声で見せていく舞台劇だ。
声だけの演技で2000人の観客を満足させられるか。神谷はそこに声優の新たな活躍の場を見出そうとしていた。
神谷が語る。
朗読全体がそうだと思うんですけど、椅子に座って、上からスポットを浴びて、薄暗い中で皆さんの想像力にゆだねて、声だけで芝居を成立させるっていう、すごくシンプルなものもあると思うんですけど。
どうせやるんだったら、まだ誰もやったことがないような、「ああ、朗読、楽しかったな」じゃなくて、「あれはすっごい面白かったんだよ」って誰かに言ってもらえるんじゃないかなって思って。
台本が出来上がり、通し稽古初日。ここからは声優たち自身が受け持つキャラクターに合わせて、より適した台詞に作りあげていく作業だ。神谷が演じるのは詐欺グループのリーダー、青柳。冷静沈着に見えるが、実は感情に流されやすい性格の持ち主だ。その青柳の心の揺れがラストで物語の一つの見せ場になる。その感情の起伏を声だけで表現しなければならない。
神谷が違和感を覚えたのは、そのクライマックスだ。詐欺グループと悪徳刑事・黒部の対決。青柳の恋人を殺したのが黒部だという過去が明らかになる。憎しみの感情を爆発させるが、思いとどまり、冷静さを取り戻す。この感情の起伏の表現に神谷は自分で納得がいかない。
一週間後の通し稽古でも、やはり納得がいかない。神谷は水島監督と相談し、台詞を追加した。これで、感情を声だけで表現することがスムースになった。
神谷が語る。
僕にとって作品は何かって言われたら、とてもシンプルに考えれば、生きるための術だと思う。でも、それだけじゃない気はするし、僕にとっては、作品を作り続ける場に居られることの方が楽しいし、重要だから。
本番初日。終盤の黒部を追い込むクライマックスも上手くいき、観客の反応も上々だった。しかし、神谷の表情は明るくない。
満足しないんですよ。満足しちゃうと、終わりな感じがしちゃうから。いつか、「今年はすごい満足だ」ってトータルで言える出来だったりとか、そういうものがあったらいいなと思いますけど。
きょうも神谷は自問する。この声は期待に応えているか。
神谷にとってプロフェッショナルとは。
自分より優れた人たちと一緒に時間を共有して、自分に責任感を持って時間を全うする。そこに居続けられたらいいなと思いながら、仕事をしているんだと思います。
今の仕事は他者の期待に応えられているのか。常に自問する人間でありたい。そう、僕も神谷さんから教わった気がする。そして、その自問は生涯続くのだろう。