【プロフェッショナル 声優・神谷浩史】答えを求めて、声を探す(2)
NHK総合の録画で「プロフェッショナル 仕事の流儀 声優・神谷浩史」を観ました。(2019年1月7日放送)
きのうのつづき
自ら出来上がりに終わりを決めない神谷。その姿勢は徹底している。
外国ドラマの日本語吹き替えのときのことだった。物語はデンマークを舞台にしたテロ事件。神谷はあるシーンに違和感が残った。
それは事件現場に特殊部隊が突入するというとき、それを知らされていない仲間が指令室に入ってくる場面だ。「ルイーセ、出てけ」という一言に、ひっかかりを感じていた。
テストが終わり、特に修正もなく、本番に入ろうとしていたときだった。神谷が演出家に声をかけた。「46ページの『ルイーセ、出てけ』なんですが、ここで急に主人公が激高するのもおかしい」。すると、演出家は「焦っている感じでしょ?ルイーセには内緒でやっているわけだから」「焦る感じ・・・怒っている感じじゃなくて、焦っている感じか・・・にしては言葉が強いなと思って。『出てけ』って言葉が・・・でも、これ以外ないですものね」「『出てろ』は?」「『ルイーセ、出てろ』」。
神谷の発した疑問をきっかけに、焦りの感情を表現すべきという結論に達した。
神谷は常にキャラクターの心の動きを徹底的に突き詰める。それは吹き替えだけではない。
ナレーションでは、登場人物の雰囲気や番組全体のトーンを声の力で演出する。現場、現場で神谷は自分に何ができるかを追求し続ける。
神谷が語る。
この人が期待してくれている以上、その期待は裏切りたくない。その期待に応えたい。でも、その期待を大きく上回る何かを常に提出したいと思ってはいるけど、それが難しいってことも知っている。
僕の性格かもしれないですけど、褒められても疑っちゃうような性格なんで、あんまり褒められている感覚はないですね。いや、自分の中にこういう反省点があるっていうのを抱えている以上は。
なぜ、神谷は相手の期待以上のものにこだわるのか。神谷の神谷たる流儀があった。「その場その場の責任感」。
神谷が言う。
よく七色の声みたいな感じで、まるで別人みたいな声質でお芝居される方もいらっしゃいますけど、僕はそういうタイプでは残念ながらないので、向こうが求めている以上の何かを提案しないと、次も求めてもらえないんじゃないかと。
オファーがなければ収入ゼロという厳しい現実。そして、自分の自信の無さを埋めるべく努力し続ける神谷。そうまでして、なぜ、この仕事にのめり込むのか。
神谷は答える。
僕、なんだかんだ言って、現場にいることが好きなんですよ。そこに居続けるための努力をしているんだと思います。
つづく