【プロフェッショナル 声優・神谷浩史】答えを求めて、声を探す(1)

NHK総合の録画で「プロフェッショナル 仕事の流儀 声優・神谷浩史」を観ました。(2019年1月7日放送)

「進撃の巨人」「ワンピース」など数々の作品に声で魂をこめてきた声優、神谷浩史さん。声優ブームと言われる現在だが、「オファーがなければ収入ゼロ」という厳しい世界であることに変わりはない。数々の賞を受賞、声優の世界で中堅ではトップクラスを走り続ける実力派である神谷さんに取材班は5カ月密着したという。そこには名声の陰で悩み、もがき続ける43歳の姿があった。己の声だけで生き抜く、その覚悟に迫ったドキュメントを記録したい。(以下、敬称略)

神谷が言う。

声優って、作品だったり、キャラクターとかがないと存在できないので、自分で仕事は作れないし、常に戦いだし。成功しても誰も褒めてくれないけど、失敗したら無茶苦茶言われるし、どこまでその答えに寄り添った音が作れるか。

激動の声優界。声優志望者は年間3万人とも言われるが、生き残れるのはごくわずかである。

この仕事を始めて、安定なんて一切ないですから。ハングリー精神ですよ。

大御所と呼ばれるベテラン声優陣が活躍する中、中堅のエース。これからの声優界を担うと期待されている。だが、自身は時代が求める声優の在り方について自問し続けていた。

神谷が語る。

主は作品にあるべきだと思っていて、作品ありきで、その作品を作る上で必要な存在ですよね。それが正しいかも。理想としては、自分の気配を消して、作品の一個の歯車に徹するっていうことが、僕の目指しているものなんですよ。

アニメ「進撃の巨人」。圧倒的な力を持つ巨人と人類の戦いを描く発行部数7600万を突破する大ヒット作品だ。神谷は本作で、最強の兵士とされる重要キャラクター、リヴァイを演じている。原作の時点で高い人気を誇るキャラクター。その声を演じる神谷のプレッシャーは計り知れない。

テストが終わって、音響監督がやって来て、リクエストをした。「ああ、知ってる」の台詞を“そっけない”感じにしてほしいという注文だ。絵が完成していない時点で細かいニュアンスをイメージするのは容易ではない。

次のシーンでも細かなリクエストが続いた。敵地に奇襲をかける場面。大声は出せないが、離れた味方に号令を掛けるというシーンを声で演出しなければならない。

「行くぞ!今度はこっちから仕掛ける」

制作者が求めるものに、どこまでも応えようとする神谷。信頼は絶大だ。

音響監督の三間雅文はこう評価する。

思ったものを必ず返してくれる。思った以上のものがサプライズで乗っかってくる。くさらない。「できねえよ、そんなの」じゃなくて、できるためにはどうしたらいいんだってことを常に前向きに考えている。

OKが出ても、神谷はけして表情を緩めない。声優として自らに課す一つの思いがある。「上りはない」。

神谷は語る。

上がりはないんですよ。芸術家ではないので、僕ら。プロの人たちって、誰かがOKを出すんですよ。だから納得しようがしまいが、そこで作業は終わるんです。強制的に。そこまでで、自分が納得するものを提出しないかぎりは、ずっと悔いを残し続けることになるんですね。

努力しなかったら、しなかったなりの音となっちゃうし、努力したら、したなりの音になるし。それはどの作品もそうなんですけど、もっといいものができるんじゃないかって毎回思います。

つづく