柳家喬太郎「牡丹燈籠⑦ 関口屋強請り」
柳家喬太郎「牡丹燈籠~関口屋強請り」
女房のお峰を幸手の土手で惨殺した伴蔵は「追い剥ぎが出た!」と店に駆け込み、店の奉公人と現場に行き、血まみれのお峰を見せる。「どうして、こんなことに?」とシラを切り通し、野辺の送りを済ませた。しばらくすると、女中のおますの様子が妙です、と番頭からの報告。布団の上で、女中がうわ言を喋っている。「ねぇ、あなた。乳の下から貝殻骨にかけて斬られた時は痛とうございました。よくも私を殺したね。8年連れ添って、萩原様を殺して幽霊からもらった百両で大きくした関口屋。いい気になり、のぼせあがって、私を殺して楽しいかい?」。お峰が乗り移った、女中のうわ言が怖ろしく聞こえてくる。江戸から来たという名医に診てもらうことに。すると、現れたのは幇間医者の山本志丈。「なんだい?奇遇だねぇ。伴蔵クンじゃないかい?」「山本志丈さんじゃぁ?」「羽振り良くやっていると、風の噂で聞いているよ。私も江戸を食いつめて、こっちまで来たんだがね。名医?たまたま診た患者が治ってね。女中さんを診ましょう」。
「どうだい、気分は?」。すると、女中が「志丈さん、お久しぶりです」「妙だね。私の名前を知っているよ」「乳の下から貝殻骨にかけてザクザク斬られたときの苦しさといったらなかったです。口を拭っている男がすぐそこに。萩原様を蹴殺したのも、すぐそこに」「何やら、ワケがありそうだね。暇をやっちまいな。心配ない。この家にいなければ、喋らない」。女中は店を一歩出ると、ケロリと元に戻った。しかし、続いて、番頭の文助が、次には小僧が、という風に、奉公人に次々とお峰が乗り移る。とうとう、店には伴蔵と山本志丈の二人になってしまった。
「次に乗り移るとしたら、僕だね。話を聞こう。山本志丈だ。話しやすかろう?」と、伴蔵を説得する。「実は・・・」と、伴蔵は萩原様の死からお峰の殺害まで、真実を全て打ち明けた。「よく話したね。悪党同士、やくわかる。人に喋る山本志丈じゃない。だが、自信がない」。山本は口止め料の切り餅ひとつを貰い、二人はよもやま話をしに、笹屋へ。「女を呼びましょう」。お国が酌をしに座敷に出ると、今度は山本とお国の再会。「これはこれは、山本志丈さんでは」「こいつは面白い。縁は繋がる。愉快だな」。お国は伴蔵を「こっちへ」と、別部屋に呼び出し、「あの人は幇間医者で、江戸の時分から知っている。いい加減な奴だよ。信用しちゃ駄目ですよ」と吹き込む。「あなた、一人で泊まってくださいな。あの人は、どこかへやってしまって」。
再び伴蔵が座敷に戻る。「先生、相すみません」「一人で泊まってくれと言われたんでしょ?あの女の亭主が足が悪いのは、飯島平左衛門殿にやられたものだ。源次郎はお国の不義密通の相手だ。お国は飯島殿の妾だよ。お国が、源次郎と謀って、飯島家を乗っ取ろうとしたんだ。だが、孝助という家来に知られて、飯島殿が源次郎の足を槍で突いた。その傷が残っているんだよ」。そして、山本は言う。「亭主を連れて、100の200のと強請りに来るはずだ。二人でここを出て、女郎買いに行かないかい?」。伴蔵と山本は笹屋を去る。そこにお国と源次郎がやってきたが、伴蔵がいないので、拍子抜けしてしまった。
翌日、伴蔵と山本が昨夜の女郎ののろけを言っているところに男が現れた。「お頼もうす!」「商人の家で聞かない台詞だねぇ。誰だと思う?」「一人しかいないでしょう。隣の部屋へ下がってください。こういうことは先生より、あっしの方が向いている」。「伴蔵です」「源次郎と申す」「旦那に挨拶に来た」「何の用で?お国さんには世話になっています」「お世話になっているのは国の方だ。過分な金をいただいて、可愛がってもらっているそうで」「酒、肴で酌をしてもらう酌女ですよ」「ただの酌代ではあるまい?亭主のある身ながら、大層可愛がってもらっている。違うか?」「あっしが間男しているみたいで。見立て違いでしょ?」「栗橋には長逗留になってしまったが、そろそろ旅立とうと思っている。女房と一緒に越後の村上に行こうと思っている。ついては、旅立つ路銀を拝借したい」。伴蔵は「少のうございますが」と、金千疋、2両2分を渡した。すると、源次郎が怒り出す。「2両2分?ふざけた真似ではないか?これはいくらなんでも困る」「それでは、いかほど、ご入用で?」「一本、百両出してもらいたい」「百両なんて金は・・・とんでもない話で」。断る伴蔵に、源次郎が脅す。「黙らっしゃい!間男代に百両。町人なら七両二分だが、侍の女房で七両二分では済まされぬ。命は惜しくないか?金でカタをつけようと申すのだ。早く、百両、出せ!」。
しかし、伴蔵は動じない。「お国さんが百両の値打ち?こりゃぁ、驚いた」「無礼!」「無礼はどっちだよ!」「誰にものを言っているのだ」「関口屋の伴蔵だ。十一の時から狂い出して、抜け参りから江戸へ流れ、悪いという悪い事はニ三の水出し、やらずの最中、野天丁半の鼻っ張り、ヤアの賭場まで逐ってきたんだ。今はヒビアカギレを白足袋で隠し、なまぞらを遣っているものの、悪い事はお前より上だよ。何を?百両?笑わせやがらぁ。お前は元々、宮野辺の次男坊じゃないか。国と密通し、飯島様を殺しておいて、何が夫婦だ?国は飯島様の妾じゃないか」。荒物屋と馬鹿にするな、極道の道を知っている男よ!という伴蔵の正体とは一体、何者だ?という、キレの良い勢いのある啖呵にビックリだ。「おとなしくしていたら、2両2分の他に、切り餅25両をやるつもりだったんだ。百両?大きなことを抜かすなよ。斬れよ!肩から斬るか?尻から斬るか?それとも、いきなり首からか?お前が飯島様の家来の孝助に狙われているのは承知してるんだ!グズグズしていていいのかよ?」。
伴蔵の勢いに押された源次郎は、「左様な苦労人とは知らず、失礼申した。有り難く頂戴します」と、金千疋と切り餅を持って、あえなく退散。「人間は素直な方がいいよ!お国さんによろしく!」。そして、隣の部屋に控えていた山本に「先生、よぉござんすよ!」。山本志丈いわく「おみそれしたね!悪いね、君は。悪党だ」「一緒に皿まで毒を食らってもらえますか?」。間もなく、伴蔵と山本は二人で江戸へ戻って、湯島に埋めてある海音如来の像を掘り出す。しかし、伴蔵は足手まといになる山本も斬り殺す。しかし、その伴蔵も間もなく、お縄となる。