【プロフェッショナル 歌舞伎役者・坂東玉三郎】妥協なき日々に、美は宿る(上)

NHK総合の録画で「プロフェッショナル 仕事の流儀 坂東玉三郎」を観ました。(2008年1月15日放送)

放送当時、57歳の玉三郎さんは、13年経っているから、70歳である。放送の中で玉三郎さんしか演じる役者がいないと紹介された「阿古屋」は、その後、梅枝と児太郎に受け継ぐ試みの公演を二度ほどおこなっている。また、2012年に人間国宝に認定、19年には文化功労者になっている。歌舞伎界の大看板は放送当時から揺ぎ無きものであったが、その後も後進の指導も熱心にやり、もはや歌舞伎界のレジェンドと言っていい。今年9月に公演が予定されている「東海道四谷怪談」は仁左衛門丈との共演でいまから楽しみだ。そんな思いを持ちながら、この番組を観て、玉三郎さんの凄さを再認識したので、記録したい。(以下、敬称略)

年間500の舞台をこなす、玉三郎は歌舞伎座の楽屋に入るとすぐに化粧に取り掛かる。女性へと変身していく過程には細部のこだわりが詰まっている。観客と生で向き合う役者という仕事。その使命を、玉三郎は「夢の世界へいざなう」と考えている。

壇浦兜軍記「阿古屋」。高い技術と気品が求められる難しい役だ。現在(08年)演じることができるのは玉三郎ただ一人である。歌舞伎の演目には長い年月に培われた演技の型がある。手の高さから、顔の角度、体の傾け方まで細かく決められている。しかし、型を正確に演じるだけでは人の心を打つことはできない。

「型に命を吹き込む」。裁きの場に呼び出された遊女が命懸けで潔白を証明しようと身を投げ出す演技の型。そこに死を覚悟した女の気高さをこめる。

玉三郎が語る。

こういうディテールをふんだら、必ずこういうニュアンスが出ますというものじゃないんだよね。魂とか心という糸で縫い付けないと、100万個同じことしたら同じニュアンスが出る、そんなことはないの。

玉三郎の真骨頂は高い身体能力に裏打ちされた優美な動きにある。高度な技術を駆使した舞いは海外でも高い評価を受ける。その華麗な舞いは大きないくつもの壁を乗り越え、編み出されたものだ。

173センチの身長は女形としては高すぎた。腰を曲げ、膝を折ることで、背を低く見せている。身体にかかる負担は並大抵ではない。

舞台が終わると、真っ直ぐに帰宅する。どこにも寄らない。

玉三郎が言う。

衣装が出来るとか、いい鬘が出来るとか、いい音楽が出来るとかが、一番の気分転換だね、舞台のね。

20代の頃からトレーナーをつけて、体のケアを徹底している。身体が弱いから、筋肉をほぐさないと、明日も皆と同じところから仕事できないという。一定した声を保つために、友人との電話も控えているという念の入り様だ。

玉三郎には一つの流儀がある。遠くを見ない。明日だけを見る。それだけを一日一日続けて、50年が経った。「明日のことを大事にしていけば、つながれるかもしれないし。それしかやりようがないんじゃないですか」。

つづく