玉川太福「青龍刀権次」(5)「美人殺しの真相」
木馬亭で「玉川太福月例独演会」を観ました。(2021・07・03)
きのうのつづき
玉川太福「青龍刀権次」(五)「美人殺しの真相」
血染めのハンカチを手掛かりに、高橋刑事の捜作が進む。捜しついたのは、中山トヨという名の女性が住む一軒家だ。
トヨの素性は調べがついているが、確認のために、本人の口から訊き出す。沼津に住んでいたが、19歳で東京に出てきて結婚し、牛込に居を構えていた。しかし、子宝に恵まれたが死産。それがきっかけで、離縁をし、お針の稽古を教えながら生計を立てている。
高橋刑事が「横浜野毛町に住む岡山よし子を知らないか?」と問うと、「よし子さんの乳母として仕えていました」と答える。
去年の11月11日の美人殺しの犯人として、一週間前にその岡山とし子を連行した、と高橋刑事。俥屋の供述通り、よし子は築地河岸の2階から夜10時に俥に乗って、麹町の丸八といううどん屋の角で降りた。落としたハンカチには城南女学校の刺繍。そこまでは合致するが、殺人の動機など、それ以上のことが分からない。
その上、よし子は何も食べず、このままだと飢え死にしてしまう。ほかに犯人がいるのではないか?トヨさんに力を借りたいと高橋刑事は頭を下げる。よし子の動機を知るために、一芝居打ってほしいというのだ。
シナリオはこうだ。トヨがとし子に対面する。「あなたは人を殺したのですか?」「ハンカチの血はなんですか?」「あなたは鬼になったのですか?私の乳を飲んだせいですか?」「三途の川を渡るなら、乳母がお伴をしましょう」と、剃刀を喉元にあてる。
こうすれば、3年ぶりの対面で、よし子は「心に秘めたこと」を話すのではないか。そう、高橋刑事は考えたのだ。トヨは引き受け、よし子と対面する。
よし子は「あなたにだけは話します」と、深い事情を話し始めた。
私は母の顔を知らずに13歳まで父と二人きりで暮らしてきた。と、15歳のとき、お父様が二度目の妻としてうら若き女性を連れてきた。その人の名は、江川敏子。私は城南女学校に通うため、麹町の叔父様のところに住まいました。そこへ、急に「帰ってこい」との電報が届いた。父が亡くなったのです。父の死に顔を一目見ることもできぬまま、野辺の送りをすましました。初七日も、学校の試験があるために東京に戻りました。
父が亡くなって三十五日。「財産分与で2万円を送る」と手紙が来ました。おかしい。父の財産は25万円あったはず。急いで野毛に駆けつけると、貸家札が貼られていました。財産は江川敏子に奪われてしまったのです。
11月11日。宇津木正之助という男が私に近づき、「あなたのお父さんは毒殺された」と言う。モルヒネで殺された。だが、証拠はない。「仇を討ってやる。今晩、築地に来なさい」と言われた。9時25分。銃声が鳴り響いた。「殺したのはこいつだ」と、江川敏子をピストルで撃った。ハンカチの赤いものは、父の仇の血潮です。そのハンカチが刑事さんの手にあるハンカチです。
これをすべて白状してしまうと、父の親友である宇津木正之助さんが犯人にされてしまう・・・。
そう言って、岡山よし子は東京百美人殺しの真相を語ったのであった。