澤雪絵「万手姫恋慕」伴侶を持つのに一番大切なものは見た目ではなく、気持ちの優しさと教えてくれる。

木馬亭で「日本浪曲協会6月定席二日目」を観ました。(2021・06・02)

去年、芸術祭の大衆芸能部門で新人賞を受賞した実力派、澤雪絵さんで「万手姫恋慕」を聴いたが、とても良かった。酒井雅楽守の娘、万手姫(まてひめ)18歳の恋煩いに端を発して、「女の幸せとは何か」を考えさせるストーリーが心に響いた。そして、内容だけでなく、雪絵さんの伸びやかな声が心地良かった。

気の病は恋煩いだと診察した医師の道白は、万手姫からその恋の相手を訊き出す。浅草観音参拝の折りに出会った若殿様・・・さる大名のご分家の一上(いちのかみ)=一ノ上卿(いちのしょうけい)だということまで判った。

これは奥州伊達藩一ノ関の伊達兵庫正勝様ではないか?と話はとんとん拍子に進み、祝言を迎えることになる。

だが、いざ輿入れと、体面して顔を見ると似ても似つかない醜男。完全な人間違いをしてしまったのである。万手姫は病の床に再び就いてしまった。

正勝は性格がとても優しく、熱心に看病するが、万手姫は嫌で仕方がなく、見向きもしない。あの凛々しい若殿が恋しい。

そんなある日、万手姫が女中きせと世間話をしていると、妙な話を聞いた。紀州の松平様のご分家の一上様のところに輿入れしたお姫様が可哀想なことになったという。その若殿様はお姫様を相手にせず、腰元衆にちょっかいを出したり、町人の娘にまで手出しをするスケベな殿なのだという。それはもう気の毒で、そのお姫様は暇をもらって、離縁してしまったのだと。

万手姫が気が付く。私が恋煩いをしていたのは、その紀州松平様の若殿だったのだ!

女の幸せというのは、見た目より性格だ。優しい方に限る。真心こそ、この世の宝、身の宝。

万手姫はわがままだったと改心した。伊達兵庫正勝様が醜いと嫌っていた私が恥ずかしい。許してくだされ。

その後、正勝の殿様と万手姫は幸せな夫婦生活を送ったという。

なんと、良い話ではないか。見た目ばかりに気を取られるのは若い娘にありがちなことだが、よくよく長い目で考えてみれば、穏やかな夫婦生活にはお互いに思い合う優しい気持ちが何より大切だということを、この浪曲は教えてくれた。