春風亭百栄「七ツのツボを押す男」「少年ジャンプ」の黄金時代をユーモアに包んでリスペクトした新作落語に拍手喝采!

西巣鴨スタジオフォーで「春風亭百栄勉強会 もちゃ~ん」を観ました。(2021・05・23)

百栄師匠の毎月の勉強会は長年落語協会の二階でおこなわれてきたが、このコロナ禍以来、この会場が使えなくなり、去年2月を最後に途絶えてしまった。去年7月に今回と同じスタジオフォーで1回だけ「もちゃ~ん」が開かれたが、それ以来ではないだろうか。

「七ツのツボを押す男」を久しぶりに聴いた。どれくらい久しぶりだろうか、と調べてみたら、2015年10月の勉強会「ももちゃれ」以来だった。ややこしいが、百栄師匠の勉強会のタイトルは2年に1回くらいの周期で変更される。「ももちゃれ」の後が「もちゃもちゃ」で、その次が今の「もちゃ~ん」だ。

「七ツのツボを押す男」は少年マンガ誌のリスペクトをテーマにしている。よく四大少年マンガ誌と言われるのが、「少年ジャンプ」「少年マガジン」「少年チャンピオン」「少年サンデー」。それに「少年キング」なんていうのもありました、と師匠は付け加えていた。その人その人の年代で、全盛期だったマンガ誌が違う。僕が小学校のときに夢中で読んでいたのは「少年チャンピオン」だった。「ドカベン」「ブラック・ジャック」「がきデカ」「エコエコアザラク」「キューティーハニー」「750ライダー」「マカロニほうれん荘」…。

それに肩を並べてきたのが「少年ジャンプ」で、僕は初期の「ど根性ガエル」「トイレット博士」「侍ジャイアンツ」「庖丁人味平」くらいまででは読んでいた。が、その後の80年代に爆発的に発行部数を伸ばしていくようになった頃の「キャプテン翼」「キャッツ・アイ」「Dr.スランプ」「ドラゴンボール」「北斗の拳」などはあまり読んでいない。

百栄師匠も80年代から90年代にかけて、アメリカ滞在中に日本から送られてきた「少年ジャンプ」を愛読していた口だそうで、中学高校といった青春時代の思い出ではないと口演後に言っていた。

ただ、1995年に650万部という発行部数の金字塔を打ち立てた「少年ジャンプ」は、ある意味、日本のマンガ文化の成熟の象徴であり、それをリスペクトするのに、「北斗の拳」を題材にしたこの新作落語はまさに的を得た選択だと思う。

「マッサージ北斗」のマッサージ師おじいさんは、中国4000年の奥義を使って、サラリーマンのヨシダヒロシの身体を芯からほぐす。いや、魂をほぐすと言ってもいい。そのおじいさんは好きなヒーローもののマンガの主人公の名前を引き出そうと必死になる。まさに、「北斗の拳」のケンシロウの気持ちになって。

この落語の手法は浪曲の「清水次郎長 石松三十石船」になぞらえているのがミソだ。おじいさんの名前は広沢猫造。お前は最強のヒーローは誰だと思う?とヨシダヒロシに問い、孫悟空(ドラゴンボール)やキン肉マンや聖闘士星矢、はたまたアラレちゃん(Dr.スランプ)や大空翼まで出てくるが、肝心のケンシロウが出てこない。イライラするマッサージ師のおじいさんとヨシダヒロシとの格闘が延々と続くストーリーだ。

「お前はすでに払っている」というサゲまで含め、「少年ジャンプ」黄金時代を百栄カラーのユーモアに包んだヒーローものマンガへのリスペクトたっぷりの新作落語に拍手喝采であった。