「MUSIC MAN」桑田佳祐 音楽の神様のように、彼の歌声は人々に勇気を与え続けている
NHK総合の録画で「復活!桑田佳祐ドキュメント~55歳の夜明け~」を観ました。(2011年2月26日放送)
サザンの桑田さんは今、65歳である。今も元気に日本の音楽界のトップを走っているのは嬉しい限りだ。その桑田さんの10年前、そう、食道がんが見つかり、大きな手術をして見事に復活を果たしたドキュメンタリーを観た。その時、55歳。桑田さんは現代の社会というものを、そして生きるということを深く考え、それを音楽という最高のパフォーマンスにしているのだなあと痛感した。
復活後にリリースされたアルバム「MUSIC MAN」に収録された「銀河の星屑」に関連して、こんなことを語っている。
死後の世界というのは昔から物語として興味があった。でも、僕は臆病だから死ぬのは怖いし、幽霊とかも見たくないし、すごく恐れている。そういう性格だから怖いもの見たさで、ああいう歌詞で昔から書くこともあったんだね。
森を抜けると蓮の御池があってさ 夢を見たのかい!?No,no,no 道に迷ったのかい!?水面に浮かぶ花を見て眩暈がしたよ 見上げりゃ御来光が差して来て 宴が始まる Carnival ここは何処だろう!?Dance,dance,dannce この世の果てかい!?美しい女性が微笑み手招きしてる
2010年7月28日、桑田さんは初期の食道がんで年内の活動を休止し、コンサートはすべてキャンセルすることを発表した。
桑田さんが振り返る。
そろそろ来るかなみたいな、霊感じゃないけど、俺の身に何かあるんじゃないかな、と。ガンと突然言われると、どうしよう、ですよね。医師が手術はできるだけ慎重に万全を期してやりますが、声が変わる、もしくは声が出なくなる可能性も、場所が場所だけに覚悟してください、と。何割ずつかわからないけど、僕は先生を信頼して悪い方へ転ばないように祈るしかなかった。
諸行無常だな、弱気になったり、人生について儚いなとか考えちゃう。一人になるのは良くないですね。狭い書斎でペンを持って考えるのは。レコーディングしてるというのは、格好いいこと言うと、命を削ってじゃないけど、魂を削ぎ落して、録音する作業というか、何かに染み込ませるような作業だなと思うことがある。これが最後の作品かな、遺作だったりしてとか、思って歌入れしていました。
2010年8月2日 10時間の大手術で、試練に打ち克った。
その精神的支えになったのは、妻の原由子さんの存在だったという。
一緒に病室にいるときも、これから手術室に向かいますってときも、小さなカメラを持って撮影していました。この撮影のテーマは「復活」、それを記録するって。激励の一つだと思って、ありがたいと思います。
2010年10月 歌入れ再開 ありがたいことに、声に変化はなかった。
12月 アルバムジャケット撮影 タイトルは「MUSIC MAN」に。
桑田さんが語る。
音楽の神様というニュアンスに思えてきた。「MUSIC MAN」というのは、音楽人以上に、もっと広い大きな存在、音楽の神様に手を合わせながら、自分の魂について叫ぶとか、祝詞を上げるとか、祈るとか、そういう状況が頭に浮かんだんです。
2011年2月 福岡でアルバム試聴会開催。抽選に当たった800人が集まった。そして、サプライズとして、桑田さん自身が登場し、歌った。
その直後に桑田さんはこうコメントした。
やっぱり半年前とは、違うわ。この体ということを、すごい認識した。めんくらったんですよ。一から出直しだな。
当初、全国6か所で開く予定の試聴会にサプライズ出演するはずだったが、桑田さんの判断でとりやめた。ファンに元気な姿を見てもらいたいという気持ちとのジレンマと闘っている桑田さんの姿があった。
2011年6月 茅ヶ崎 桑田さんの故郷での試聴会でのサプライズ出演を決めた。これが最後の試聴会、特別な思いをこめて歌った。
桑田さんの音楽に対する思いがそこにある。
音楽の神様を拝んでいるしかないんですけど、病気したときに、ファンの方々もそうですし、ありがたく、ありがたく、守ってくれる家族含め、いたわけですね。そういう存在を考えるように知らしめられたような気がするんです。これからは、そういう人たちを大事に、そういう人たちの幸せを願う。お坊さんみたいですけど。それが自分の与えられた義務であり、自分の役目というか。これからの音楽はそういうことを意味するのかな、と思います。
がんを克服してから、10年。桑田佳祐は人々に生きる勇気を与える音楽を歌い続けている。