東家孝太郎「忠太郎月夜唄」 義理と人情に生きる侠客の世界。その美学を節と啖呵で魅せる浪花節が好きだ。

木馬亭で「日本浪曲協会定席 二月興行 四日目」を観ました。(2021・02・04)

長谷川伸先生が書いた「忠太郎月夜唄」を東家孝太郎さんが唸って、とても良かった(曲師:伊丹明)。師匠である二代目浦太郎の音源をYouTubeで公開したところ、NHKの「浪曲十八番」のプロデューサーが「是非、放送させてくれ」と頼んできて、オンエアしたネタだそうだ。こういうことがまだNHK―FMでできることを嬉しく思う。音声波もAM2波が1波に統合され、FMとの役割分担も5年後には大きく変わるだろう。

さて、この話に出てくる番場の忠太郎と金町の半次郎は侠客である。わかりやすく言えば、ヤクザ者。親分だった笹川繁蔵の仇を討とうと飯岡助五郎を狙うが、「トドメをさせぬまま」失敗、今は飯岡一派に追われる身だ。半次郎が実家に戻ると、母親と妹がいる。そこに飯岡一家から「土手まで出て来い」という呼び出しの書面が届く。命のやりとりをする稼業の親不孝。生まれ故郷で血生臭いことはしたくない。母親は「おっかさんを殺してからお行き」と言う。仕方ない家の中にいる、その心中やいかに。

そこに忠太郎が弟分の半次郎に会わせてくれと、訪ねてくる。妹は「兄さんはいません!」、母は「あいつは勘当した。人別帳にない人間だ」と言う。忠太郎は仕方ない、言伝を頼むとこう言う。「私の父親は十二のときに死に別れました。母親は五つの時に生き別れました。親のことを夢に見ないでいると思いますか。母は風の日も雨の日も田圃仕事をしていました。悔しい。あれから18年。今じゃ名うての一本どっこ。喧嘩博奕に明け暮れながら思い出すのは母の顔。一度も忘れたことはありません」。同い年の子どもが祭の鐘や太鼓に浮かれているとき、オイラのかあちゃんは?と枕を濡らした。母に会いたい。過ぎた昔が懐かしい。

その話を聞いて、中から隠れていた半次郎が出てくる。忠太郎は言う。「堅気になって親孝行しろ」。「兄貴!すまねえ」。半次郎は母親の面倒で常陸の叔父さんのところに厄介になる手筈を整えた。明日には旅立つ。優しい母は別れの膳を用意してくれた。親に背いてヤクザ稼業になり、忠太郎兄貴の弟分になり世話をかけた。慈しみという、兄貴の胸の内に男泣きする半次郎。

そこに飯岡の一派が。「ヤイ!お前が来ないから、こっちから来た。婆も娘も叩き斬るぞ」。一旦は別れを告げた忠太郎がこの様子を知り、引き返してきた。何人もの飯岡の子分を叩き斬る。半次郎の母は忠太郎の気持ちに感じ入る。「あなたのおっかさんは?」「江戸にいるという噂を聞きました。江戸へ行こうと思います」「路銀は?」「100両ばかりあります。博奕で儲けたときに母と会うときに使おうと持っていました」。矢立を見つけると、無筆なのでと代筆を頼む。「この人間どもを叩き斬ったのは、江州番場の忠太郎…」。実の母に会った気になり、涙する忠太郎。草鞋の紐を結ぶたびに、母が恋しい。二親揃った人達には俺の心はわかるまい。

急ぐ心は江戸にいる、優しい母の面影。回し合羽に三度笠で駆け出す忠太郎。空は朧月で、街道を照らす。夜空に梅の花が散る。おぉ、侠客伝の醍醐味だねえ。力強い孝太郎さんの唸り声に思わずジンときた。