【渋谷らくご 正月興行】謹賀新年。今年もシブラクで大いに楽しまさせていただきます(上)

配信で「渋谷らくご 正月興行」を観ました。(2021・08~09)

1月8日(金)18時

古今亭駒治「上京物語」橘家文蔵「文七元結」

駒治師匠、師匠志ん駒の思い出。秋田から東京に出てきたアオイ、それを追いかけてきた父親の複雑に張り巡らされた都内路線図に困惑する様子に共感。東京駅から東村山に出るのに、オレンジの列車の中央線を東海道線と取り違え、何往復もしたり。通勤快速は通勤者じゃないと乗っちゃいけないと思いこんだり。特急小江戸と都営大江戸線を取り違えたり。東京乗り換え「あるある」が楽しい。

文蔵師匠、じっくり。長兵衛はコテを持たせたら江戸で五本の指に入る左官の職人で、その肌理の細かさは落雁肌と呼ばれているのだが。佐野槌女将が「育ててくれた親や師匠、自分の腕に恥ずかしいと思わないのかい」と、博奕の恐ろしさを諭す。助けてください!と頭をこすりつけるようにお願いする長兵衛が印象的。

1月8日(金)20時

三遊亭兼太郎「黄金の大黒」立川笑二「鉄拐」桂春蝶「松曳き」蜃気楼龍玉「大仏餅」

兼太郎さん、元PRIDE選手。絽に婆さんの腰巻を縫い込んで袷にした羽織。春蝶師匠、ハイテンション。トップが粗忽というよりアホだと…という演出か。殿様も三太夫もアホ。上方のアホはニュアンスが違うのだろうけれど。

笑二さん、立川流ならではのネタ。俗を嫌っていた仙人の鉄拐が一身分体の術で人気が出ると金、女、酒に溺れる。人の道を説くためだった仙術が、寄席芸になってしまう皮肉。張果老がライバルとして現れ、人気を二分してからの展開に独自の工夫。

龍玉師匠、三題噺。「大仏餅」「新米の盲目乞食」「袴着の祝い」。先代桂文楽が絶句して高座を下りたことで有名な噺だが、珍品が聴けて嬉しい。朝鮮鈔羅の水こぼしから、盲目乞食が著名な茶人・神谷幸衛門であることがわかる。サゲはマクラで披露した大仏の小咄が生きている。素晴らしい。

1月9日(土)14時

柳亭市童「蜘蛛駕籠」柳家わさび「紺屋高尾」玉川太福「愛宕山 梅花の誉れ」柳家小八「文七元結」

市童さん、本寸法。アラ熊さんの繰り返しの酔っ払い。踊れ、回れ、チョイヤサのコラサの男。リズムがあって愉しい。わさび師匠、マクラを一切振らずに。26歳にして女を知らない堅物の久蔵の初心が師匠のニンにぴったり。指先の染料がメジロの糞で洗っても落ちない、というディテールも好き。

太福さん、めでたいネタ。三代将軍家光のわがままを、「少しは油を搾ろう」と静観する知恵伊豆が目に見える。間垣平九郎の愛馬とのコミュニケーションも愉しい。小八師匠、あっさり味。佐野槌女将の言葉。「植木屋になったんだってね。いい目が出るようにって、湯水のように金を使っているんだってね」。

1月9日(土)17時

古今亭志ん五「黄金の大黒」春風亭百栄「落語家の夢」入船亭扇里「鼓ヶ滝」古今亭文菊「うどんや」

志ん五師匠、おめでたい噺。大黒様が「恵比寿も呼んでこよう」と思うくらいに愉しいどんちゃん騒ぎなのだから、店賃や羽織や口上ではなく、鯛のせり他に重点を置いてほしいと個人的には思う。

百栄師匠、配信でこのネタはすごい。「落語家ちゃん」を飼いたいというミクちゃんと、購入方法をネットで検索しても出てこなかったと鈴本を訪ねる金持ちらしき母親が可笑しい。さらに、真顔で対応する若社長の「小三治は半分は国の持ち物なので、手続きに時間がかかる」というのも愉しい。

扇里師匠、ファンタジー。和歌三神が夢の中で爺さん、婆さん、お花坊になって歌の手直しをする様子。音に聞く鼓ヶ滝をうち見れば川辺に咲きしたんぽぽの花。文菊師匠、巧い!仕立て屋の太兵衛の娘のミー坊の婚礼の話の繰り返しが憎めない。風邪っぴきがうどんをすする仕草に腹が鳴る。