【渋谷らくご しゃべっちゃいなよ 創作落語大賞2020】春風亭昇々と立川吉笑の接戦。レベルの高い戦いに新作落語の明るい未来を見た。

配信で「渋谷らくご しゃべっちゃいなよ 創作大賞2020」を観ました。(2020・12・15)

今年の創作大賞にノミネートされた5作品の口演がおこなわれる前に、面白い二つ目賞(渋谷らくご大賞)に立川笑二さん、楽しみな二つ目賞に田辺いちかさんが受賞したことが発表された。

笑二さんは去年に続き2回目の受賞だ。僕が今年、シブラクで聴いた高座は2月「お直し」5月「青菜」6月「八五郎永劫回帰」7月「もう半分」8月「木乃伊取り」「一眼国」9月「死神」10月「居残り佐平次」「黄金餅」11月「崇徳院」12月「初天神」「神回」「怪獣のバラード」。質量ともに文句なしではないだろうか。

いちかさんは二つ目昇進2年にしての受賞。僕が今年、シブラクで聴いた高座は6月「長門守木村重成最期」7月「敵討母子連れ」10月「安政三組盃 羽子板娘」「忠僕元助」12月「臆病一番槍」「生か死か」。前座時代から、その片鱗を見せていたいちかさんが、コロナ禍の中、早くも講談の世界で注目を浴びていることを実感する1年だった。

渋谷らくご自体は3月までは通常興行ができていたが、4月は休止。三K辰文舎の3人のメンバーの落語のみ配信された。5月からは無観客で通常興行5日間を配信でスタート。9月からは定員の半数以下を上限として観客を入れ、配信もおこなう、ハイブリッド興行がスタートして、現在に至る。僕自身は3月までは渋谷のユーロライブに行って観ていたが、配信スタート以降はユーロライブに足を運ぶことを控え、配信で観ることにした。コロナ禍がこの先、年が明けてどうなるのかわからないが、しばらくはこの体制が続くものと思われる。

さて、「しゃべっちゃいなよ 創作大賞2020」である。結果から書くと、春風亭昇々さんの「安心教」が受賞した。かなりの接戦だったと、結果発表のあと、プロデューサーの彦いち師匠、キュレーターのタツオさんら審査員の方たちがおっしゃっていた。僅差。立川吉笑さんの「乙の中の甲」を高く評価する声も多かったそうで、僕自身も「今年は吉笑さんではないか」と予想していた。吉笑さんの場合は毎年、クオリティーの高い作品を輩出しているので、来年以降、必ずや受賞されることと思う。

特筆すべき点を2つ。去年12月に二つ目に昇進したばかりの立川談洲さんの「やおよろず」が素晴らしかったこと。2月にナマでネタおろしを拝聴したときから、「すごい!談笑一門の吉笑、笑二に続く有望株が現れた」ことを深く認識したが、その後の活躍も目覚ましく、今後ますます期待できる。もう一つは、春風亭昇也さんの「うらめしや松次郎」。古典中心で軽妙に笑わせてくれる噺家さんという認識だったが、こういう場に立つと、さすが師匠の昇太イズムを随所に感じさせる仕上がり。古典の基礎がしっかりしているので、噺の構成も上手で、もっともっと新作にも手をつけてほしいと思った。

立川談洲「やおよろず」

ちょっとしたミラクルが重なったら・・・。航空機内に、続々と神という名がつく医療関係者が手を挙げ、緊急オペチームが。それだけでなく、野球チームが結成できたり、キャビンアテンダントの理想の結婚相手が見つかったり、奇跡の連続という…。創作落語の面白さのストライクゾーンに投げられた剛速球。今後が楽しみである。

三遊亭粋歌「新しい生活」

コロナ禍で在宅ワークが定着したことの功罪。「オレはもう整った」と暢気に好きな時間に好きなことをしてインドアライフを楽しむ亭主。だが、その一方で、主婦である女房のストレスは爆発寸前になる。主婦層に共感を得るのではないかという講評があったが、僕は違うと思う。これは社会全体、世の中の人々全体に共感される一席だと思った。リアルな社会問題を落語という笑いに包む、粋歌落語の真骨頂がここにある。

立川吉笑「乙の中の甲」

緻密に計算された論理構成で展開するストーリー。「俺の中のお前」と「お前の中の俺」が行き来する。単に八五郎と熊五郎の間のやりとりにせずに、番頭さんを媒介にすることで、噺を飽きさせないどころか、ますます面白くしている。当たり前とは何か。常に真剣に考えている吉笑さんの姿が浮かび上がる完成度の高さだ。ある種の「哲学」とも言える吉笑落語は、このまま進んでいってほしい。

春風亭昇也「うらめしや松次郎」

怪談は緩和の中の緊張である。枝雀師匠の「緊張の緩和」理論の逆説を、稲川淳二の手法に準えて展開する視点が素晴らしい。「うらめしや」は、「うらめしい」という形容詞に、「や」という助詞をつけて強調している。「よろしくね!」と陽の手で軽く出て来い。固定イメージに囚われない幽霊像を出したセンスに拍手を送りたい。

春風亭昇々「安心教」

本音で生きることの難しさ。それを超えて、世間の声を気にせずに発言することは、結局、組織になじめないことになる。世の中の「うさんくささ」を提示していると、作家の長島有さんは指摘していた。実生活で人に好かれるためには、本音を抑えめにすることにいきつくのか。