立川吉笑「見たことも聞いたこともない虫」入門から10年。栴檀は双葉より芳し。ますます面白くなる擬古典落語に天賦の才を見た。
はてなブログで「立川吉笑ひとり会」9月回と10月回を観ました。
吉笑さんが入門して10年になったそうだ。2010年10月、当時「月刊談笑」を北沢タウンホールでやっていて、そこで弟子入り志願。翌11月に見習いになった。12年4月に二ツ目に昇進したときのことは僕も鮮明に覚えている。「え!たった1年7カ月で!」。そして、吉笑さんの高座を聴きに行き、納得した。この人はとてつもない才能を持っている、そして新しい落語というものを作ってくれる。そう確信した。そして、現在。それは確実に進行している。
9月
「粗粗茶」
粗茶ですが…と言って出す日本語には「謙遜」があるという理屈を吉笑さんらしい鋭い切り口で構成している。美味しいお茶を「美味しくなくてすみません」とへりくだるのが「粗茶」ならば、「美味しすぎてごめんなさいね」とへりくだるのは「粗粗茶」ということか。行き過ぎた謙遜は「皮肉」になるというフレーズも鋭い。粗品、粗相、愚妻。さらにはその逆で、御御籤(おみくじ)、御御御付(おみおつけ)って!?
「DX落語」
以前に聴いたものより進化している。マーケロボの営業マンがデジタルに疎い師匠たちから「MAツールとは」について、あれこれ頓珍漢な質問をされる面白さに留まっていない。便利と古き良き落語文化を単純に相反するモノと考え、熱量や気合いを良しとした芸の世界において、マーケロボなんてものを導入するなんて「了見が腐る」と落語の大御所に言わせておきながら、見事な“デジタル啖呵”を営業マンがきることで状況が一変する面白さに感動した。
「カレンダー」
これはもう、名作ですね。ある島のカレンダーが閏年なのに、2月29日がなかったことをきっかけに、過去のカレンダーの間違いが次々と発見され、騒動に。さらに、島の丘に設置されたデジタル時計は、「59秒、60秒、00秒、01秒」と「1分当たり1秒多い」ことまで発覚し・・・。
10月
「親子酒」
禁酒を破った親父が酔っ払った直後の描写。先代小さんは一瞬の描写でドカンと強烈にウケるが、まだ自分は1回もそこでウケたことがないと吉笑さん。そういうお気持ちがあれば、どんな新しい落語を作っても間違った方向にはいかないと思いました。
「見たことも聞いたこともない虫」
入門して2か月で作った噺で、談四楼師匠の会の前座で働きに行ったときに、「何でもいいよ」と言われ、かけてみたら、思いのほか受けたそうで。その時から擬古典という新しい新作の分野の才能があったのですね。江戸はなんでも荷売り商いだったので、「虫売り」というのがあったという入り方からして素晴らしい。そして、生類憐みの令で虫も対象になったけれど、「見たことがある虫」「聞いたことがある虫」は対象だろうが、「見たことも聞いたこともない虫」だったら商売してもよかろうと、「あたま山」に向かうところも可笑しい。栴檀は双葉より芳し。
「小人八九」
言葉警察についてのマクラから、この噺へ。現在活動中の「ソーゾーシーツアー2020」のために作った作品だそうなので、ネタばれしてはいけないので、詳しくは書きませんが、吉笑イズムがしっかりある傑作だと思った。現在のコロナ禍を反映させた擬古典で、あることが飛沫感染してしまう…、ここまでにしておきましょう。また、ナマでこの噺が聴ける日を楽しみにしています。