新作落語はもはや“邪道”ではない。作者以外の噺家が習い、演ることがニューノーマルに!

池袋演芸場で「福袋演芸場 落語協会 新作トリビュートの会」を観ました。(2010・09・22)

きのうに引き続いての福袋演芸場。一番の先輩である粋歌さんが音頭をとって、粋歌含めた5人のメンバーが、「落語協会所属の噺家が創作した新作落語」を演る趣向。それぞれの個性が生きていて、新作落語の無限に広がる可能性を感じた。もはや新作落語は邪道ではない。柳家三三、三遊亭粋歌がそれぞれ三遊亭白鳥作品である「任侠流れの豚次伝」、「落語の仮面」の連続物を演る時代になったことは新しい落語界の潮流である。古典落語を誰かに稽古をつけてもらうように、新作落語を創作者以外の噺家が習い、演ることが普通になる時代がきている。

それは物語を楽しむことであり、粋歌さんがオープニングで「大袈裟に言えば、作家性が問われる時代」と言っていたが、まさにそうだ。独りよがりの新作落語はつまらない。色々な演者が演れる噺、それも演者が変わると色合いも変わってくる楽しみがある。SWAに続く、若い世代による落語新時代の幕開けは近い。

柳亭市童「箱の中」(三遊亭粋歌・作)

断捨離が叫ばれて久しいが、何でもポイポイ棄てればいいってもんじゃない。モノの価値判断を的確にすることが必要。「親の心子知らず」と言うが、こちらは「子の心親知らず」。「終活は親の務め」と張り切る両親の頓珍漢ぶりが巻き起こす騒動は学ぶところ多し。「怖~いハナシ」というラジオの企画で創作された噺だが、まさに親と子の間の価値観の相違も怖いです。

柳家花ごめ「公家でおじゃる」(三遊亭丈二・作)

まさに丈二ワールドの噺なんだけど、それを楽しそうに演っている花ごめさんが明るくていい。クゲというペットがいるという発想から、どんどんエスカレートしていく様が愉しい。座敷公家と小屋公家、さらに野良公家の身分や扱いの違い。餌のクゲ缶の懐石料理味って、食べてみたい。挙句はUFOが降り立ち、クゲ星人が現れて、地球は平安時代になりにけり。情景が頭に浮かばないくらいにぶっ飛んだ傑作だ。

入船亭小辰「天使と悪魔」(春風亭百栄・作)

原作は二ツ目の栄助が、後輩の一之輔人気に焦りを感じていることが軸になっているが、ここでは小辰自身が「ニュースエブリの食レポでレギュラー出演している」市弥に嫉妬している。悪魔が「新作、やっちゃいなよ!」と言うのに対し、天使が「だって、あなた、新作なんか演ったことないじゃない!」と言うのだが…。調べはついているんだよ、令和元年8月16日「新版三人集 オール新作ネタおろし大会」で演っているだろ!には爆笑。そのほか、8月26日の小太郎との二人会、「コタコタ」@連雀亭でも!身に覚えがないとは言わせないぞ、と。「こてこての古典の下に、かすかな新作の匂いがするんだよ」(笑)。

鈴本が何をしてくれた?には、「席亭が『鰍沢』を褒めてくれた。サゲの言い方をもっと変えた方がいいと小言もあったけど」「じゃあ、若旦那に可愛がられているのか?」「一言も喋ったことがない」。やっぱり、俺は扇辰の弟子だ、と目覚め、「それなのに、あの姉さんが・・・三遊亭粋歌め!」(笑)。でも、扇子を2本使ってピッケルにしたり、座布団を持ち上げてガメラを表現したり、「ぺたりこん」リスペクトで手が机から離れない仕草をしたり。愉快!

古今亭志ん吉「掛け声指南」(林家彦いち・作)

主人公・ムアンチャイはたどたどしい日本語を喋るキャラに仕上げたが、さすがにそれでいっぱいいっぱいだったらしく、それ以外の登場人物は江戸弁に!それもまた楽しいではありませんか。リングサイドの掛け声を勉強するために新宿の街中を歩くのも、どうしても「乙な歩き方」になってしまうと、座布団から立ち上がり、高座をぐるぐると歩き回る荒業も!

三遊亭粋歌「ラジオデイズ」(古今亭駒治・作)

粋歌が尊敬している駒治師匠の世界観を大切にした高座は、ほかの出演者とは格上の上手さで、駒治落語の魅力であるノスタルジーたっぷりだった。パジャマボーイ、世界の山ちゃん、ファンシーストロベリー、小野妹子と四天王そろい踏み。時代がデジタルに変わっても、ラジオではパーソナリティーの魅力溢れる番組がたくさん放送されることを祈って。ラジオはいつまでもリスナーとの距離の近いメディアであり続けますように。