「筆おろしは、俺に任せろ!」 春風亭一之輔の心意気
一之輔チャンネルで「春風亭一之輔10日連続落語生配信」を観た(2020・04・21~25)
突然、一之輔が叫んだ。「10日連続で落語を生配信します!」。現在、都内の寄席は営業を自粛している。一之輔師匠がトリを勤める予定だった上野鈴本演芸場の4月下席夜の部も当然、全日程休止となった。コロナ禍の中、他の噺家さんがはじめたネット配信にゲスト出演することは何回かあったが、ついに自分が主体となって配信を宣言したのだ。
メディアでは、東出昌大さんとMCを担当するEテレ「落語ディーパー」(不定期放送)をはじめ、JFN系列「SUNDAY FLICKERS」(日)朝6時、ニッポン放送「あなたとハッピー」(金)午前8時、TBSラジオ「たまむすび」(水)午後3時台「マクラだけ話します」など、レギュラー番組を抱え、演芸ファンだけでなく、その名前は多くの人たちに知られている。当時の小三治会長肝入りで21人抜きの単独真打昇進してからもう8年になるが、人気と実力を兼ね備え、落語界を背負って立つ若手真打筆頭の一人であることは、もはや説明不要だけど…一応、書いておきました。
一之輔師匠の思いは、配信初日21日昼に配信された「春風亭一之輔の寄席入門」を観るとよく伝わってくる。
「興味はあって聴いてみたいんだけど、今更訊けない」という方のためにご案内します!寄席は「落語を主にやっているライブハウス」です!地方の文化会館などでやるホール落語、個人に呼ばれてこじんまりと開く落語会などを我々は「脇の仕事」と呼んでいます。中心は寄席です。我々のホームグラウンドです。ここを軸として落語をやっています。(以下、である調で書きます)
寄席は大阪に繁昌亭、喜楽館、名古屋に大須演芸場がある。東京には5軒の寄席があるが、国立演芸場を除いた民営の4軒について、それぞれの特徴を説明。上野鈴本演芸場は一番歴史があり、格式がある。新宿末廣亭は桟敷席があり、提灯がぶら下がり、外観も趣がある。情緒ある寄席。浅草演芸ホールは全国から観光客が集まる場所にあり、親しみがある。お客様がガチャガチャしているのを、どう高座に集中させるか、腕の見せ所。池袋演芸場は「客引きは100%ボッタクリ」という看板が掲げられた西一番街にある(笑)。客席100という濃密な空間で、持ち時間が長く、大きなネタに挑戦できる。紹介した順、つまり「鈴本、末廣、浅草、池袋」という序列になっていることも明確に示した。
落語=笑点は誤り!地方に行くと、座布団をいっぱい並べられる場合があるが、あれは大喜利といって余興。落語ではない。「早く『笑点』に出られるように頑張ってください」と言われることがあるが、それは困惑。東西併せて1000人弱の噺家さんがいて、それぞれ頑張っている。
東京には主に4つの団体がある。落語協会に私は所属しているが、一番人数が多く大きい。落語芸術協会が、もう一つの大きな団体。笑点の司会をやっている昇太師匠が会長。五代目圓楽一門会は、笑点の司会をしていた先代の圓楽師匠が組織した。落語立川流は、談志師匠が落語協会から飛び出してできた。ちなみに、大阪に上方落語協会がある。
こんなに分かれているけど、昔喧嘩をした人たちが出ていって分かれただけで、その辺のことを詳しく知りたい人は自分で調べてください。ほかの派閥?というか、団体の噺家さんとも今は仲良くやっていますから。ただ、五代目圓楽一門会と落語立川流は落語協会を飛び出していったので、寄席に出られない。でも、今、段々と融和な雰囲気になってきて、芸協の寄席に圓楽一門会や立川流がゲスト出演というのも頻繁にあり、穏やかな空気になっていますよ。寄席は1日~10日は上席、11日~20日は中席、21日~30日は下席と呼んで、私は4月下席が中止になったので、こうやって配信することに。
で、鈴本演芸場4月下席夜の部のプログラムを例に、寄席の流れを具体的かつ懇切丁寧に説明。寄席はトリの一之輔がずっとお喋りしているわけではなく、色々な芸人さんが出演。落語家だけでなく、漫才、紙切り、曲芸、手品、音曲、三味線漫談…などの芸人さんを組み立てて番組を組む。落語ばかりでは、くたびれてしまう。ホッとした時間が必要。頭を休める。
もと、かよ、ふゆ。これはお囃子さんの名前。下手袖に控えて、出囃子などの音楽担当。与いち、り助、市松、ひこうき、まんと、駒平、貫いち。これは前座。与いちが立前座といって、リーダー。出演者の出番を仕切る。ネタ帳に毛筆でネタと演者を書く。寄席は事前にネタを決めていない。落語家はネタ帳を見て、(ネタかぶりがないかチェックして)その日のネタを決める。り助がNo.2。太鼓を叩く。市松から駒平までは楽屋働き。師匠たちの着物の着替えを手伝ったり、お茶を出したり。一番下の貫いちは高座返しと言って、座布団をひっくり返したり、メクリを出番の演者の名前に変えたり。
次の朝枝、㐂いち、一猿、一花、一刀、朝之助、一蔵。この7人が二ツ目。前座と真打の間の階級。10日間をこの7人の誰かが出演。このプログラムは「顔付」と言って、寄席の経営者=席亭が集まって、トリを決めて、さらにその他の出演者も決めていく。小規模なドラフト会議。芸人は立ち入れない。だけど、二ツ目枠には私(一之輔)の弟子の㐂いち、それに兄弟弟子を優先的に入れてくれている。
赤字で書かれている、アサダ二世。ほかに、にゃん子・金魚、楽一、小菊。この方たちは色物と呼ばれる。「なんだ、あいつ、色物みたいな奴だな」なんて、悪いイメージで捉える人が時折いるが、全くそういうことではない。落語以外の人ですよ、という区別をするために、赤字にしているために、色物さんなんです。で、アサダ先生は「きょうはちゃんとやりますよ」と言って出てくる、タキシード姿のチョビ髭の手品をやるおじさん。ちゃんとやると言いながら、漫談が多くて、その漫談が面白くて、15分高座をそれだけで降りちゃうことも。
次の金時師匠。先輩の中堅真打。9月下席から、五代目金馬襲名披露が決まっている本格派。馬石師匠、ちょっと先輩。立ち姿、佇まい、所作が綺麗。かつ、フラがあって可笑しい。にゃん子・金魚は漫才。にゃん子先生は元女優で綺麗、だけど大五郎という焼酎を2リットル、1日で空けちゃう。金魚先生は客席からバナナの差し入れがあって、ゴリラの物真似をして爆笑がお約束。扇辰、文蔵となっているのは交互出演(5日ずつ)。扇辰師匠は滋味があって、渋くて、でも艶があって、色気がある。文蔵師匠は親分肌で豪快。でも、緻密な芸をなさる。で、中入り前が小ゑん師匠。ベテランの新作落語。現代を舞台に自分でこしらえた噺をやる。趣味が幅広く、天文、オーディオ、鉄道、これらを題材にした新作も。「おでんくん」より20年以上前に、おでんを擬人化して喋らせる落語「ぐつぐつ」は代表作で名作。
中入り休憩後は、紙切りの楽一さん。このポジションを食いつきと呼ぶ。名前の由来は諸説あり、休憩中に食べ始めたお弁当をまだモグモグと食べている時間帯だからという説もあれば、中入りでお客の気持ちの潮が引いているのを、もう一度、高座に食いつかせる役割だからという説もある。次は円太郎師匠。小朝師匠の一番弟子。私も色々な噺を教わりました。豪快だけど、小朝師匠譲りの色気もある。そして、小菊師匠。このポジションは膝代わり、またはヒザと呼ぶ。胃にもたれない色物さんを配置。小菊師匠は粋曲といって、都々逸などを三味線で演奏し唄う。綺麗で色気のあるお姐さん。
で、トリで私、一之輔が高座に。30分の持ち時間ということになっていますが、ゆるくて、時には40分、50分演ることも。ということで、寄席は流れが大事。みんなが大爆笑じゃない。このポジションはこういう役目で後に繋いでいく、と野球でいう打順みたいなイメージ。トリにむかって、一番いい状態にお客さまをもっていくチームプレイ。コロナ禍が収束したら、是非寄席へ!
初心者にも、わかりやすく、やさしい、寄席案内。10日連続配信の目的は、寄席に行ってみよう!と思う人を一人でも増やしたい!というメッセージですよね。
21日「団子屋政談」
初日。「苦肉の策」で配信を、と。テキサスは朝6時10分です!観ます!ってメール来たと。全世界が観ている?そんな大袈裟なもんじゃない。みなさん、マスク、届きました?家はまだ。次男は「スイッチ」という任天堂のゲームを欲しがるけど、値段見たら高い!冗談じゃない、甘やかせないと、「初天神」へ。途中、「衛生が大事。有名人が手を洗う動画をアップ」とか「一律10万円給付で、買ってよ!」とか時事ギャグはさみ、終わると思いきや、大岡越前登場で、なんと改作へ展開。なぜか暴れん坊将軍のテーマで大岡様が天神様に!
22日「粗忽の釘」
無観客は「スベリ知らず」でいい、と。爆笑のつもりで演れるから。これから配信芸人になろうかな。弟子4人にそれぞれ課題を与えている。㐂いちには、九九と干支と東海道新幹線の駅名が全部言えるように。貫いちはけん玉、一休はショーケンの「傷だらけの天使」のオープニングの完コピ、与いちは縄跳びのはやぶさを5回連続。本編、吉幾三の「リフォームしようよ」のメロディを鼻唄する八五郎が最高。
23日「百川」
出身の野田の中学時代の教師から、頼んでいた10月の学校寄席がコロナ禍で延期になったと連絡あり。「何か地元の話題を喋って」と。東上線、伊勢崎線、野田線と続く東武線のヒエラルキーの話に。スカイツリーラインやらアーバンパークラインやらへ改名する了見をユーモアに包み揶揄。「何、演ろうか」迷っていると、「芝浜」の粗筋を喋り、「アル中だった男が3年禁酒していたのに、酒勧めてどうする!」「50両を拾ったことを夢だと信じてしまうボンクラが成功するわけない」と突っ込み入れる。子供のマクラで「初天神」と思わせ、泥棒のマクラに急カーブし「鈴ヶ森」と思わせ、さらに夫婦のマクラに変えて「鮑のし」と思わせるのが大好き!と。
24日「千早ふる」
この配信はアーカイブではなく、ライブで楽しんでほしいと。実際、寄席はライブで、その場で消えてなくなるからいい。沢山の人に後から見られると困ることも。次男に言ったんです。「お父さんが素っ裸になって、オチ〇チ〇を出したら、回線がプツンと切れて、このYouTubeはお取り潰しになるばかりか、翌日のデイリースポーツにちっちゃい記事で、一之輔ご乱心という見出しが載るんだ」。そのあと、楽屋には面白い人がいっぱいいると、故・圓蔵師匠の思い出。世の中ついでに生きているのが一番いいと、この噺へ。
25日「青菜」
YouTubeで金稼ぎする了見はない!と言いながら、照れて「投げ銭システム」が導入されたこと。企業の広告がついたことを紹介。良いと思います!投げ銭は強制ではなく、「寸志」なのがいいです。この日の18:30から小三治師匠がYouTubeでメッセージを配信、「千早ふる」を演ったことに触れ、「昨夜の配信を見て、落語界の最高峰が黙っていられなかったんでしょうね。これが、本物!というのを見せて頂きました」と。「徒然なる人間国宝に背筋が伸びました」。きょうはある有名落語家(トノムラ経理課長)が現場に突然現れ、ケーキの差し入れがあったそう。きょうの晩ごはんはシチューなので、早く帰る!と言って、夏の噺を。
長くなってすみません。「春風亭一之輔10日連続落語生配信」は、きょうも夜20:10からあります。千穐楽終わったら、また書きます。あと、一之輔師匠が触れていた人間国宝のメッセージについても、27日のブログから書こうと準備しています。思いは色々あるので、喬太郎師匠同様、何日かに分けて書くことになると思います。ご興味のある方はお読みくださると幸いです。