お客様の“喋るおもちゃ”でありたい 柳家わさびの紙人形芝居、続々配信
わさびのチューブで配信中の「月刊少年ワサビ 紙人形芝居」第1号から第11号までを観た。
柳家わさび師匠が3月30日に開催予定だった「月刊少年ワサビ」(通称・月ワサ)132号が中止となり、急遽、生配信して三題噺「四畳半王者」を披露したことは4月1日のブログで書いたが、その後、師匠はこのコロナ禍に対応して、“紙人形芝居”を精力的に配信して、現在10作品が楽しめるようになっている。師匠が声のみ出演して過去に創作した三題噺を演じ、それに合わせて、あらかじめ描いた背景の前で、串に登場人物を貼り付けた人形を動かすことで、ストーリーが展開していくパフォーマンスで、これが実に面白い。
現在、配信中のものを、ご紹介します(※ザックリした内容は矢部が勝手にネタばれしないように簡略化したものです。ご了承ください。)
(第一期)
第1号「BARぶらり」(ぶらり途中下車の旅/エジプト/黒ぶちメガネ)
人気番組「ぶらり途中下車の旅」をリスペクトしたガールズバーに、番組をこよなく愛する常連客が毎晩集まる。そこでは車だん吉や阿藤快など準レギュラーの旅人に関するマニアックなトーク、収録中の生写真のトレードが。エジプトから出稼ぎに来た女の子パトラも話題についていこうと懸命に勉強して働く、笑いと感動の物語。
第3号「マジ本尊」(グッゲンハイム美術館/わさび/定額給付金)
ある寺の住職はインチキくさいお経を読み、ぐうたらと女の子と遊んで暮らしたいというチャラ男。ある日、グッゲンハイム美術館から寺にある仏像を貸してほしいと依頼があり、御礼は実物を見て決めるという。高額を期待し、寿司屋に特上を頼むが、お遣いの珍念がうっかりワケを話してしまい、親方は懲らしめのために大量のわさびを入れた寿司を握ると…。
第4号「AMAYADORI」(梅雨入り/のどぼとけ/歌舞伎座閉館)
ジャパニメーション目当てで日本に観光にきたアメリカ人が銀座で雨宿りをしようとして、歌舞伎座の一幕見に入ってしまう。四階までの階段を昇るのに息切れ、大向こうを大声ゲームと勘違い、白塗りの女形にビックリ。歌舞伎に詳しくないわさびさんが実際に一幕見を体験して無理やり作った愉快な噺。
第5号「イケ患」(人間失格/散髪したて/MRI)
初めてホストクラブに行ったアラフォー女医・ケイコは、あの楽しかった時間が忘れられずに気もそぞろ。そこに頭にデッドボールを受けたイケメン高校球児が急患で運ばれてきて、MRIを撮影しなければいけないが、うまく説明できずにパニックが起きる小スペクタクル。
第6号「キー坊」(プログラマー猿/ネズミ花火/ブサイク選手犬)
近所に内緒で猿を飼っているプログラマー・タダシ。締め切りが迫り困っている彼に、自分を助けてくれた恩返しとして猿のキー坊が「作業を手伝う」と喋り出す。すべて猿まねでこなし、発注が殺到。一人と一匹で荒稼ぎ。そこに大事なクライアントからクレームの電話が…。涙なくしては語れない物語。
(第二期)
第7号「豊作さん」(キングコング/月見団子/プルトニウム)
日本にはお月見という風習があると授業で習ったジェニファーはメモを基に家族と一緒にジャパニーズお月見に挑戦。だが、メモに書かれたのは「豊作、そめこ、さんぽう、プルトニュウ」。頓珍漢な団子が作られ、頓珍漢な行動をするジェニファー一家。気をつけないとBPOに問題視される(本人談)作品。
第8号「出待ち」(忘れ物/太宰治/宝塚歌劇団)
太宰治研究部の部長の山田くんは対人恐怖症の高校生。最後の文化祭で、「人間失格」を朗読することになったが。不良に本を差し替えらるいじめに逢うも、すべて暗記していた山田くんは緊張しながらも、やりきった。体育館を出ると、そこに女子高生が待っていた…。甘酸っぱい学園物語。
第9号「コトブキ」(仮面ライダー/牡蠣の土手鍋/結婚式)
新しい仮面ライダー番組の企画会議が煮詰まると、プロデューサーが良いアイデアにはボーナスを出すと提案。ADの森は自宅に帰ると、奥さんにアドバイスされ、結婚をコンセプトにした企画を提出。これが見事採用されるのだが…。特撮業界の裏側を知らないくせに勝手に作った(本人談)作品。
第10号「非モテの冬」(クリスマス/インフルエンザ/こたつでみかん)
街中がカップルでにぎわうクリスマス。おひとりさまの大学生による「非モテサークル」は、不公平だとクリスマスイベント粉砕デモを決行。注意する警察官と彼らの論点が次第にずれてきて…。イケメンに対するやっかみ満載の噺。
第11号「生写真」(びんぼう神とふくの神/嵐(ジャニーズの)/KFC)
入院中のリコちゃんに、おじいちゃんがフルーツを持ってお見舞いに。だが、ジャニーズの嵐の生写真がほしいと言い出す。高級カメラを買って、生写真を撮る祖父のシゲル。だが、嵐のメンバー5人の名前を勘違いして、変な生写真ばかり。でもリコちゃんは怒らない…。嵐ファンはこのまま別動画に移動した方がいいお話(本人談)。
こんな僕の拙い内容紹介でも、面白そう!と思いませんか?
これまで132回開いてきた「月ワサ」の蓄積を埋もれさせたら勿体ない、YouTubeなどで蘇らせたいと以前から考えていたそうだ。この社会状況の中でわさび師匠は考えた。紙芝居落語は笑点の二番煎じになってしまう、紙人形芝居はどうだろう。やってみたら、「チープだけど伝わりやすい!」。元々の創作能力と話芸、それに日大芸術学部油絵学科卒業という画才。プラス、落語への情熱。背景と人形をクロマキー合成することで立体感が出る。過去の三題噺を練り直すことでクオリティが上がる。さらに「生配信」にこだわり、視聴者のチャットに反応し、技術的トラブルやハプニングにアドリブで対応することで、臨場感溢れる作品に仕上がっているのがかえって良い。もちろん、生配信後もアーカイブとして残して誰でも好きなときに見られるようになっている。すごい!
第一期が終わったときに「第一回紙俳優アワード」と題して、5作品を振り返り、制作の裏話を師匠自らがネクタイにジャケット姿で出演し、語っている内容が、わさび師匠の落語に対するスタンスの取り方がわかって興味深いです。(これもアーカイブ化されています。)
ドラマのように一字一句台本を作って演じるのではなく、いくつかのキーワードをころがして、思いつきでジャズのように日常のヒトコマを切り取りたい。そして、15分ほどでスッと終わるのが落語らしくないか、と。カッコイイ!
でも、ひとつひとつの作品の制作裏話をしていく師匠の手元には、お題に関連する情報を集めた紙資料、そこから発想したアイデアメモ、さらに登場人物をイメージしたイラストや絵コンテなどがあり、緻密な計算を下地に作っておいてのジャズ演奏なのだということがわかる。さらにカッコイイ!
初演は「本尊」だったタイトルを「マジ本尊」にしたり、旧歌舞伎座は本当にエスカレーターがなかったか裏をとったり、コロナ禍で大変な医療現場を揶揄することにならないか考えたり、その噺へのきめ細かい配慮は徹底している。お客様がお題を提出することを遊びはじめて、「プログラマー猿」が出たときには誤字脱字だったという展開に処理したというエピソードを聞いたときは尊敬以外のなにものでもなかった(※現在はお題回収前に「過去の三題噺のお題一覧」のA4の紙が配布され、そこには「何卒、現実に使われているお言葉でお願いします」と付記されている)
「夢に出るほど考えていたら、本当に夢の中でアイデアが浮かんだ」「モノ作りというのは頭がそれでいっぱいになるくらいの状態で、イイモノができる」という言葉には感動した。柳家わさびからますます目が離せない。
4月27日の「月刊少年ワサビ133号」も勿論、生配信ですが、その前に「三題噺会議ライブ」を実施するそうです。お題は「春キャベツ」「ざわざわ」「テレワーク」。柳家わさびが感じた【あるある】ありか?なしか?“会議する”生配信。21日21:10から、YouTube「わさびのチューブ」で検索して参加しよう!
最後に、「東京かわら版」2019年9月号の「今月の特集 落語協会 秋の新真打」から、わさび師匠のインタビューの抜粋で締めくくりたい。
落語ってそもそも遊びなんだと思うんです。まだ落語を知らない大学生の頃の私にはそう思えなかった。真面目な授業みたいな感じで。はじめて落語を観に行ったときに「落語は遊びなんだ」と感銘を受けました。それを今の若者にも伝えたい。笑わせたり噺の面白さやオチで「おっ」って思わせる、要はお客さんにとっての喋るおもちゃでありたいです。