先代円歌の教え「笑わしてなんぼ」を貫く 三遊亭鬼丸

Twitterで三遊亭鬼丸師匠が投稿した星野源さん「うちで踊ろう」とのコラボ動画を観ました!(2020・04・13)

最初に、現在の新型コロナウイルス感染拡大防止のための徹底した外出自粛という社会情勢の中、星野源さんがおこなった素晴らしい試みについて、きちんと基礎情報として書いておきます。

星野源さんは4月12日に、「うちで踊ろう」を演奏している動画をインスタグラムにアップして、「誰かこの動画に楽器の伴奏やコーラスやダンスを重ねてくれないかな」と呼びかけた。歌詞はコロナ禍の中、皆で頑張って乗り切っていこうというメッセージと受け取れる。

うちで歌おう 悲しみの向こう 全ての歌で手を繋ごう 生きてまた会おう 僕らそれぞれの場所で 重なり合えそうだ(一部抜粋)

これに多くの芸能人たちが賛同した。高畑充希がハモり、渡辺直美が踊り、ガチャピンとムックがコラボした。星野さんは感謝した。そんな中、安倍首相も犬とくつろいだり、コーヒーを飲んだりした動画を二画面にして、12日にSNSにアップ。すると、賛否は分かれ、国民の間で物議を醸した。星野さんはそれを受けて、コメントしている。「ひとつだけ。安倍晋三さんが上げられた“うちで踊ろう”の動画ですが、これまで様々な動画をアップしてくださる沢山の皆さんと同じ様に僕自身にも所属事務所にも事前連絡や確認は事後も含めて一切ありません」。菅官房長官は13日、「(コラボ動画は)過去最高の35万を超える『いいね』を頂くなど、多くの反響がある」と会見で述べた。

まぁ、受け取り方は千差万別である。その上での鬼丸師匠のパロディ動画だ。二ツ目時代から自分で主催している独演会を名人会ならぬ「タロ人会」と名付けて今も続けているユーモアセンスのある噺家さんであることを今回は紹介したかったのです。

三遊亭鬼丸師匠のプロフィールです。72年長野県上田市出身。97年三代目三遊亭円歌に入門、歌ご。2000年二ツ目に昇進し、きん歌。02年に若手ユニット「大江戸台風族」を結成し、話題に。10年に三遊亭鬼丸で真打昇進。ちなみに「大江戸台風族」のメンバーは、木久蔵、甚語楼、我太楼、英助(現・百栄)、志ん太(現・志ん丸)、天どんとの7人。歌った「ジュゲム」はアニメ「こちら亀有駅前派出所」のエンディングテーマにもなった。

鬼丸師匠は、埼玉県民にとってはおなじみの噺家さんだ。NACK5(FM)で11年4月から、「GOGOMONZ」(月~木 午後1時~5時生放送)のメインパーソナリティーとして活躍。現在も放送中だ。また、今年4月からはテレビ埼玉で自身初の冠番組「鬼丸テレビ」(月 夜9時45分~55分)がスタート。その当意即妙な喋りとユーモアセンスが人気だ。

僕にとっても、思い出の噺家さんである。00年~04年まで長野放送局に勤務していたのであるが、01年12月総合テレビ放送の「たべもの新世紀」(現在の「うまいッ!」の前身)で、「残したい里の誇り 辛味大根~長野県下條村」の東京のスタジオゲストに先代の三遊亭円歌師匠をお迎えした。そのときに、鞄持ちで同行していたのが、当時のきん歌さんだった。

その後、地上デジタル放送開始を前に「地域放送の充実が大切である」という方針で、夕方5時から1時間枠はローカル局独自の生放送番組を全国一斉でおこない、「地域密着型」を目指せと指示が出て、(後年、その方針は修正され、全国ネット「シブ5時」が放送されることになるのだが)、予算が少ない中、「遊夕信州」という番組を立ち上げ、制作した。そういう時代の流れの中、長野県出身の二ツ目さんの地元の落語会の高座とインタビューを撮影して流そうという企画を立てた。

そのときにご協力を頂いたのが、上田市出身のきん歌さん(現・鬼丸師匠)。確か「ちりとてちん」だった記憶がある。そのほか、飯田市の亀蔵さん(現・円十郎師匠)や山ノ内町の昇之進さん(現在は真打)にもご協力いただいた。あのときは、本当にありがとうございました。

2010年1月(真打昇進直前ですね)に「朝日いつかは名人会」で、柳家花緑師匠をホストに、鈴々舎わか馬さん(現・小せん師匠)とともに出演し、軽妙な座談会と、爆笑の「お見立て」を披露した高座を観たのをよく覚えている。

最後に「東京かわら版」2010年10月号の「落語協会 秋の新真打」のインタビューの抜粋で締めくくりたい。

(二ツ目になりたてのころから「笑わしてなんぼ」っていうことをおっしゃっていましたが、に)それに関しては入門以来14年間、全くぶれていないと思います。どんなにうまくできたとしても所詮自己満足なんで、でも面白いっていうのはごまかせないと思うんです。うちの師匠が常にお客さんを笑わせるっていうところを見て弟子入りして一緒にいますので、そこがやっぱり円歌イズムと言うか。(中略)

桂文珍師匠が「好きすぎず嫌いすぎず」って仰ってたんです。落語に対する愛情は持ちながら盲目にならない。古典落語に対するほどよい距離感を持とうと思いました。自分に合っているんならやりたくないネタでもやるべきだろうし、かといって商売のネタとしか思わなかったら落語って絶対面白くならないですから。やりたいネタっていうのもあると思うんですけど、自分らしくっていうのも大事にしていきたいですね。僕自身多分、毒っ気の強い方だと思うので(笑)そういう部分もありますし、お客さんに「きん歌さん、底抜けに明るいじゃないっすか!」って言われたことがあって、そういうところも大事にしていきたいと思います。以上、抜粋。

いまも続いている「タロ人会」の精神を持ち続ける噺家さんとして、応援していきたいと思います。