渋谷らくごから生まれる新しいスターたち
ユーロライブで「各賞受賞者の会」と「しゃべっちゃいなよ」を観た(2020・02・18)
サンキュータツオさんの主宰で5年前からはじまった「渋谷らくご」の、昨今「落語ブーム」とか言われるようになったことへの功績は大きい。上野、浅草、新宿、池袋に寄席の定席があるが、渋谷はどちらかと言うと若者の街で、「演芸」なんぞには縁もユカリもなかった。だからこそ、若い世代を演芸の魅力に引っ張りこんだことはすごいと言える。落語とは違う話芸である講談や浪曲も含有した会で、それゆえにラジオやテレビでの人気の相乗効果もあって、松之丞というモンスターが現れた。
その通称シブラクでは、毎年12月にその年の大賞を授与している。2019年の渋谷らくご大賞は立川笑二さん。毎月必ず出演し、お客の心をガッチリとつかんだ功績を讃えられた。また、創作大賞は立川談吉さん。偶数月に開かれる「しゃべっちゃいなよ」という創作落語ネタおろしの会(林家彦いちプレゼンツ)で披露した「生モノ干物」という新作落語が高く評価された。
笑二さんも、談吉さんもどちらかというと古典落語が主戦場だが、新作落語も面白い。タツオさんがパーソナリティーを務めるラジオ番組「すっぴん!」の「サンキュータツオの演芸レコメンド」で、笑二さんの「わかればなし」という新作がオンエアされたが、ミステリー仕立ての実によく出来た作品であった。また、談吉さんの「生モノ干物」も、ほかの新作落語派とは違った全く新しいタイプの創作で、言葉遊び、発想などのユニークさは誰も真似ができない面白さだ。
この日の笑二さんは古典の「お直し」を披露。習った通りに演じるのではなく、一旦自分の肝に落として自分の解釈で構築する情熱を感じる高座だった。談吉さんは、勢いに乗って新作「およそ3」と「シロサイ」の2席。これがまた、談吉ワールドという名前があるならば、そう呼びたい「生モノ干物」に負けず劣らずの快作で驚いた!古典がしっかりできる人は新作を演っても面白い。噺を積み上げて聴き手を気持ちよくその世界に引き込む実力があるから。三三師匠や、一之輔師匠、そして白酒師匠といった古典で人気の若手中堅が、企画で新作をやると圧倒的に面白いのはその素地があるからなのでしょう。
各賞受賞者の会に続き、偶数月開催の創作ネタ卸し「しゃべっちゃいなよ」。三遊亭青森さん「飼っちゃダメ?」は、なんと小学生がペットにアラフォーサラリーマンを飼いたいという!二ツ目になったばかりの立川談洲さんは「やおよろず」。なんでも「●●の神」「神ってる!」と神様を大量生産している最近の社会風潮を皮肉った爆笑落語に。2018年創作大賞の笑福亭羽光さんは、貫禄のメタ落語で「幻の落語」。昇太一門のイケメン春風亭昇羊さん「笠森のお仙」は、江戸時代が舞台の古典テイストの創作。これがまた、味わい良し!みなさん、実力者揃いです。
そして、プレゼンターの林家彦いち師匠は「無観客寄席」。この時点では、まだまだ新型コロナウイルスのニュースが出始めたときだったのに、今思い返すと、「本当にあるかもしれないよ!笑っちゃいられないよ!」という新作をネタおろし。さすが、先見の明があるというか、時代の空気に敏感な師匠ならではというか。傑作です。
5年間、この「しゃべっちゃいなよ」を隔月で続けてきて、ほかの出演者は彦いち師匠の指名で毎回変わるからいいけど、「俺は毎回ネタ卸しで大変だよ!」とこぼした彦いち師匠。実際、新作落語を作り、できたての作品を初めて客前でかけることのプレッシャーは計り知れないものがあり。じゃぁ、次回からは彦いち師匠はネタ卸しでなくてもいい、ということにタツオさんと協議の上、なったそうです。そりゃぁ、そうだよね。でも、「しゃべっちゃいなよ」は今後も注目!