落語の妖精・春風亭百栄、57歳の魅力
落語協会二階で「もちゃ~ん」(2020・02・16)、ユーロライブで「ふたりらくご」(2020・02・17)を観た。
※4月5日の予定されていた「もちゃ~ん」は、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、休止になりました。
春風亭百栄師匠はコアなファンが多く一方で、逆に落語ファンの中でもあまりお聴きにならない方も多いようだが、すごく魅力的な噺家なので、ちょっと書きたい。最初に簡単なプロフィールを。95年、32歳で春風亭栄枝に入門、のり太。99年、栄助で二ツ目。08年、百栄で真打昇進。
「もちゃ~ん」は落語協会の2階で月一回開かれている師匠の勉強会で、木戸銭2000円。僕がはじめて、この勉強会に行った2013年6月は「モモエチャレンジ」という名称で木戸銭は1000円だったが、次回から「ももちゃれ」と改名し2000円になった。理由は「下の二ツ目さんから『アニさんが1000円でやられると、僕たちの勉強会の木戸銭設定が厳しくなる』と言われたので」。その後、2016年に「もちゃもちゃ」、2019年に「もちゃ~ん」と3年ごとに名前を変えているが、木戸銭は2000円のままだ。
僕が最初にいった「モモエチャレンジ」では「子別れ」を(上)と(下)の2席に分けてかけていて、もう1席は「出囃子の空耳」と僕のメモには書いてある(もちろん僕が勝手につけた仮の演目名)が、どんなネタだったか忘れてしまった(その後はかけていないのでは)。ここからもわかるように、百栄師匠は新作しかやらないと思い込んでいる落語ファンも多いのだが、むしろ幼い頃から落語が大好きで、古典を演るつもりで入門し、いめちゃくちゃ古典に対するリスペクトがあって、定期的にネタ卸しをしている。
この日の「もちゃ~ん」は、「誘拐家族」「時そば」「禁落語外来」の3席。3席目は、2016年9月「もちゃもちゃ」でネタ卸しした新作で、確かそのときは「落語外来」とメモに残っていて、噺の中で「禁落語外来」というフレーズは入っていなかった記憶がある。内容は「禁煙外来」の落語版で、落語中毒患者を医師が診断するというもので、僕らまさに落語中毒のは堪らない愉しい一席だった。このところ、師匠のこの勉強会ではかつてネタ卸しした新作落語で、その後にお蔵入りしてしまったものを、もう一度ブラッシュアップ、バージョンアップして披露するという試みが続いている。1月にはやはり2016年3月にネタ卸しした「物言い」を蔵出しして、僕は残念ながら行けなかったのだが、その数日後にミュージックテイトの独演会でかけてくれて、嬉しかった。多分、当面はこの試みが続くと思う。ファンとしても、とてもありがたいです。
翌日の「ふたりらくご」は後輩の駒治師匠との二人会で、「天使と悪魔」をかけた。このネタは百栄ファンではない落語ファンでもよく知られたネタなので、内容はあえて書かない。一之輔師匠がまだ真打に昇進する前からかけているが、噺の中で出てくる「二ツ目の一之輔」が全国的に有名な噺家になった今でも古びれずに新鮮に笑える名作と言ってもいいだろう。百栄師匠も二ツ目だった栄助時代の録音がワザオギレーベルのCDで出ているので、寄席などに足を運べない人は、こちらで聴いてみてては?お薦めです!
最後に、百栄師匠が今年2月上席(1日~10日)で鈴本演芸場、下席(21日~29日)で池袋演芸場で主任を務めたときの演目を記します。ネタの名前だけでも、その幅広さ、魅力が伝わってくるかも。
鈴本「どら吉左衛門之丞勝家」「キッス研究会」「桃太郎後日譚」「トンガリ夢枕」「落語家の夢」「物言い」「リアクションの家元」「マイクパフォーマンス」「アメリカ・アメリカ」
池袋「キッス研究会」「バイオレンス・スコ」「マザコン調べ」「落語家の夢」「疝気の虫」「マイクパフォーマンス」「アメリカ・アメリカ」「トンガリ夢枕」。