帰ってきた志の輔らくご in PARCO

PARCO劇場で「こけら落とし公演 志の輔らくご」を観た(2020・02・19)

4年の空白を経て、新生PARCO劇場に「志の輔らくご」が帰ってきた!別に志の輔師匠が休演していたわけでなく、渋谷のPARCOの建て直しに伴う復活だが、もはやお正月のPARCO劇場の風物詩となった落語会で、劇場のこけら落としをするということに最大の意味があるのでしょう。師匠自身が三番叟を付け焼刃ながら舞うオープニングや、途中で過去の志の輔らくごで上演された53の演目名が映像とともにスクリーンに映し出されたことは、その象徴。

師匠が18歳のときに大学入学のために富山から上京し、当時の西武劇場=PARCO劇場で安部公房原作の演劇「友達」(仲代達矢・山口果林ら出演)を観劇したとき、「おれはいつかこのステージに上がるかもしれない」と思ったとか。それは表舞台に限ってではなく、大道具さんとか、そういう職業の人も含めて。きっと演劇関係のことがやりたいという夢をお持ちだったのかも。だから、今の志の輔らくごは演劇的な要素が多分にあるような気がする。

志の輔らくごインPARCOというと、お正月というイメージを持つかもしれないが、実際は96年の暮れからスタートしている。僕が最初に観たのも03年12月「メルシーひな祭り」「となりの喧嘩」「小間物屋政談」、04年12月「歓喜の歌」「こぶとり爺さん」「浜野矩随」。以降、お正月一カ月、志の輔らくごをやろう!ということになり、05年12月の公演はなし。06年1月から一カ月公演がスタートした。

一カ月もお客様が入るのか?毎日、PARCO劇場で落語を演って飽きないのか?という不安もあったのだろうか。06年は4つの期間に分割して、違う演目をやっていた。僕はすべて行ったので、日記に演目が書かれている。1月5日「はんどたおる」「ガラガラ」「新版・宗珉の滝」、9日「親の顔」「ディアファミリー」「忠臣ぐらっ」、16日「踊るファックス」「メルシーひな祭り」「江戸の夢」、23日「買い物ぶぎ」「歓喜の歌」「狂言長屋」。どれにもPARCO劇場ならではの演劇的な演出が施されていた。

07年は3分割。8日「七福神」「メルシーひな祭り」「中村仲蔵」、14日「七福神」「歓喜の歌」「徂徠豆腐」、20日「七福神」「新版・しじみ売り」「狂言長屋」。この公演のために作った新作「七福神」は共通して演っている。が、日が経つにつれて演出を微妙に変えている。これが連続公演の醍醐味。08年は「異議なし!」と「歓喜の歌」は共通。12日は「抜け雀」、26日は「宿屋の富」。僕は行っていないが、初日から10日間は「ねずみ」だったらしい。どれも旅人が主人公ですね。確か「歓喜の歌」が映画化された記念公演だった。

09年からは1カ月ずっと、3演目とも同じになった。それが16年まで続いた。そして、PARCO建て直しのため、17~19年は休演。その8年間で印象に残っていることが3つあるので、書きます。

2010年「中村仲蔵」。これが、12年から19年まで毎年続いている赤坂ACTシアターでの「大忠臣蔵」の原型となった。元々は講釈だったこの演目(現在、真打昇進襲名披露興行中の講談師・松之丞改め神田伯山の得意ネタ)は、昔から多くの噺家が落語にして演じてきたが、これを演劇的に、照明と音響効果を駆使してドラマチックに演出することに志の輔師匠がチャレンジ。落語ファンのみならず、一般大衆受けする落語の演目となった。もちろん、功罪はあることは承知です。

2011年「大河への道」。長年、日本地図を完成させた伊能忠敬の奇跡的な功績を落語にできないか、と構想を練っていた志の輔師匠。ついにそれが、完成した。サゲを言って頭を下げた後、背後の大スクリーンに映し出される国土地理院発行の日本地図と伊能忠敬が歩測で完成させた「大日本沿海輿地全図」をピタリと重ね合わせたときの感動は今も忘れない。その後も何度かPARCO劇場以外でも、この名作は演じられ、16年のPARCO取り壊し前の最後の公演でも演じた。

2015年「政談月の鏡」。初日から3日間しか演じず、「三方一両損」に差し替えられた幻の志の輔パルコの演目だ。落語中興の祖・三遊亭円朝の作を、流行したアメリカのサスペンスドラマシリーズ「24」風の4分割編集映像を使って、「さすが志の輔らくご!」と落語ファンをうならせた。07年の「ひとり国立大劇場」で初演、度肝を抜かれ、09年に赤坂ACTで再演し、再び感動を呼んだ。15年のPARCO劇場で三度目の感動が味わえる!と思ったら、1月20日に行った僕は「三方一両損」に変更されていて残念だった。志の輔事務所によると「アンケートを毎日読んでいる志の輔の判断です」とのこと。年に一度、PARCOで落語を聴くのを恒例としているお客様から「理解できない」との声が殺到したらしい。

ちなみに、今年の志の輔らくごインPARCOは、「だくだく」「メルシーひな祭り」「八五郎出世」。こけら落としにふさわしい演目でした。