けんこう一番!三遊亭兼好「河童の手」、そして笑二の90分!立川笑二「応挙の幽霊」「らくだ」

「けんこう一番!~三遊亭兼好独演会」に行きました。「やかん」「三年目」「河童の手」の三席。前座は三笑亭夢ひろさんで「牛ほめ」。ゲストは昭和歌謡アカペラグループのリストラーズ、「浪花節だよ人生は」「お嫁サンバ」「さそり座の女」「なんてったてアイドル」「ワインレッドの心」「銀河鉄道999」の6曲を歌った。
「三年目」。湿っぽくなる噺だが、本所の叔父さんがカギを握る明るい演出が良かった。女房が病に伏し、「胸につかえることがあって、目を瞑ることができない」、それは愛する夫が自分が死んだ後に後添えを持つだろうということ。これに対し、亭主は「愛する女はお前だけだ。万が一、お前が死んでも独り身を通す」と誓う。ただ、周囲が後妻を持てと五月蠅く言ってくるのではないか。特にあのおせっかいな「本所の叔父さん」の勧めを断れるか。二人で考えた案は婚礼の晩に先妻の幽霊が出れば、悪い噂が立ち、後妻を持たなくてすむだろう。
案の定、四十九日が過ぎると、本所の叔父さんがやかましく「後添えを持て」と勧める。亭主は仕方なく、後妻を迎えた。それは先妻が幽霊として出てくると約束したからだ。ところが、何日経っても幽霊は出て来ない。一カ月が過ぎ、亭主は諦めて、後妻を愛し、子宝にも恵まれる。ところが、先妻が亡くなって三年目の命日の晩、幽霊は現れた。
約束が違うじゃないか!と亭主が抗弁し、「出るなら、本所の叔父さんのところに出ろよ」と言うと、先妻の幽霊は「さっき、叔父さんのところには出てきた。泡を吹いて倒れた」。女性の愛する夫を思う気持ちゆえ「丸坊主では恥ずかしくて、あなたの前に出られない」ために時間がかかったというのが、この噺の肝だが、その二人の間に「本所の叔父さん」を介在させて、滑稽味を加えるところに兼好師匠らしさを感じた。
「河童の手」は三遊亭白鳥作品。兼好師匠の話芸の力で前半は古典風味に仕上げる手腕は流石である。後半になって、奇想天外な白鳥ワールドに展開していくのだが、そこに至るまで聴き手を前のめりにさせるのは、前半の「擬古典」が功を奏している。
吉原に入り浸りで、花魁に現を抜かし、酒に溺れる廻船問屋の井筒屋の若旦那。三代栄えた身代だが、大旦那が亡くなり、この若旦那で潰れてしまうと番頭は危惧する。甘やかして育てた母親=女将さんは「息子は目利きの力がある。商いの才覚がある」と若旦那を擁護。番頭に「元手三両で、三日もあれば、百両の価値のあるものを見つけてくることができる」と大法螺を吹く。
そこで番頭はそれが本当か、若旦那を試すことにした。一日目は「歌麿の美人画の掛け軸」、二日目は「井戸の茶碗」を手にして戻って来たが、明らかに偽物。いよいよ期限の三日目。母親は珍品堂という骨董商に百両を予め渡しておいて、その価値のあるモノを若旦那に買うように仕向けるが…。
若旦那は間違えて珍品堂ではなく、珍宝堂に行ってしまう。そして、平安時代の坂上田村麻呂所縁の「河童の手」が三万両の価値があると言われて、三両で仕入れてしまう。その河童の手は願い事が叶うご利益があると騙されたのだが、若旦那は井筒屋に戻る前に前祝いに料理屋に寄り、その河童の手に願い事をすると、何を間違えたか、河童本体が姿を現した。「一人前になりたい」と願う若旦那に対して、河童は過保護な母親と手を切れと助言をする…。最終盤にもう一工夫あれば、整合性のある噺になるのではないかと感じた。
「笑二の90分!~立川笑二蔵出し勉強会」に行きました。「応挙の幽霊」「真田小僧」「らくだ」の三席。
「応挙の幽霊」。骨董商の六兵衛は三円で仕入れた美人の幽霊画の掛け軸を、美濃屋の旦那にふっかけて九十円で売ることに成功する。床の間に掛けた幽霊を見ながら祝杯を挙げているときの独り言から、六兵衛の身の上が判るのが良い。六年前の女房を亡くして独り身だが、二人の間に生まれた八歳になる息子が奉公に出ている。年季が明けたら、その息子に店を譲ろうと思っている。儲けが出たから、女房の仏壇を新しく誂えようかと考えている…。
その話を聞いていた幽霊画の中の美人が喋り出した。何も驚かすために出てきたんじゃない、こうして供養してくれたことに礼を言いたかった、と。自分は綺麗だから、何人もの男が近づいてきた。だが、女の敵は女。掛け軸を買っても嫉妬されて、すぐに手離され、あっちこっちにたらい回しにされてきた。本当に男は身勝手だ。愚痴をこぼしながら掛け軸の前に供えられた酒を呷り、もっと注いでおくれと催促する幽霊。「こうして絵から抜け出ることができるのも応挙先生のおかげ」。
これを聞いて、六兵衛は「ええ!本物だったのか!」。それだったら、九十円どころか千円、二千円で売れたのに…。悔しがる六兵衛に対し、幽霊は優しく「慰めてあげる。私を抱いてもいいのよ」と言うと、六兵衛は「でも、絵でしょ」。この発言に「だから男は身勝手」と機嫌を損ねた幽霊は掛け軸の中に戻ってしまうという…。六兵衛と幽霊のやりとりに人間味を感じる笑二さんらしいアレンジであった。
「らくだ」。手斧目の半次が屑屋久六に命令するときの怖さが面白い。大家のところに酒や煮しめを持ってこいと言いに行くのを拒むと、「子どもの顔をよく見ておけ。それが見納めだぞ。臓物を握りしめて死ぬのがいいか、後ろから頭をかち割られて死ぬのがいいか」。
清めの酒を飲めと言うときもそうだ。一杯目、「尻に徳利を突っ込んで飲ませるぞ」。二杯目、「目の玉をえぐり抜いて注ぎ込むぞ」。三杯目、「頭をかち割って、脳みそに酒をぶっこむぞ」。ここまではずっと、半次が優勢で久六が怯えているという構図である。
三杯目を味わって飲んでから、立場が逆転する。「色々勉強になる。人間、その気になれば何でもできる。他人の弔いをここまで支度するなんて、金を持っている奴なら誰でもできるが、一文無しでこれだけのことをしちゃうんだからすごい」。
長屋の連中は何だかんだ文句を言いながらも、「死にゃあ仏」と香典を持ってきた。だけど、大家は死人のカンカンノウがおっかないから持って来た。ハナから気持ち良く持って来ればいいのに。「誰のお陰で長屋に出入りできるようになったと思っているんだ?」。それは違う、らくだが怖くてどの屑屋も出入りしなくなっちゃったからって、向こうから頭を下げてきたから出入りしているんだ。
そして、久六は半次に「もう一杯、貰おうか」。らくだの生前の悪事の数々をぶちまける。丼の揃いが五つあるからと言われて引き取ったら、蓋に長寿庵と書いてあって、払いまでさせられた。左甚五郎が彫った蛙があるからと言われ、二分出したら、蛙がピョン!と跳ねた。「魂がこもっているんだ」と。抵抗すると、馬乗りになってボコボコにされた。大声出して殴れば、何でも通ると思っているんだ。
よっぽど、殺っちまおうかと思った。指の一本だけでも食いちぎろうかと。でも、できないんだ。家に戻れば、おふくろ、かかあ、ガキがいる。皆、路頭に迷っちゃう。ボコボコにされた顔の俺を見て、六歳になる一番上の娘が「いつも、ありがとう」と言うんだ。
酒、注げよ!優しく言っているうちに注げ!きょうから俺のことを兄貴と呼べ!あれだけ怖かった手斧目の半次がタジタジになるほどに、屑屋久六が上をいく酒乱を丁寧に積み上げながら描いた高座だった。


