ひつじ洞 春風亭昇羊「唐茄子屋政談」、そして一之輔のいまコレ!春風亭一之輔「掛け声指南」「万両婿」

「ひつじ洞~春風亭昇羊毎月之落語会」に行きました。「元犬」「もう半分」「唐茄子屋政談」の三席。

「もう半分」は物足りなかった。八百屋の爺さんが置き忘れた五十両が入った風呂敷包みを居酒屋夫婦はネコババし、知らぬ存ぜぬを貫いた。十八になる娘が吉原に身を沈めて拵えてくれた五十両…娘があれだけ「もうお酒は飲まないでね」と念を押したにもかかわらず、爺さんは誓いを破ってしまった。これが天罰か…「こんなお父っつぁんでごめんな…でも、恨めしいのはあの居酒屋の主夫婦」と言いながら、永代橋から身投げした。雲助師匠は爺さんを追いかけて居酒屋主人が庖丁でとどめを刺すという演出だが、爺さんが自ら身投げするのを居酒屋主人が目撃するという型で演じる噺家も多くいる。これについて物足りないと言っているのではない。

この後、五十両を元手に居酒屋夫婦は店を広げ、商売が繁盛。女房は懐妊し、赤ん坊を産む。このとき、昇羊さんの演出は「玉のような男の子が生まれた」とした。健全に生まれるのだ。八百屋の爺さんそっくりの皺くちゃの赤ん坊で、産婆さんもビックリするとか、母親が自分の産んだ子を見て卒倒して亡くなるとかではないのだ。爺さんの怨念が赤ん坊にこめられたというおぞましさがないのだ。

赤ん坊が夜中にスヤスヤ寝ていたが、突然起き出して、トコトコ歩いて行燈の傍に行き、湯呑に油を注いで美味そうに飲み干し、「もう半分」と言うサゲは一緒なのだが、不気味さがいまひとつ感じられなかった。残念である。

「唐茄子屋政談」。若旦那の徳三郎が炎天下、唐茄子を担いで売り歩いていたときに、蹴躓いて当たり一面に唐茄子を撒き散らしてしまった様子を見た男の江戸っ子気質の優しさが素敵だ。荷を軽くしてやろうと、色々な人に声をかけて、売り捌いてあげる。徳三郎は「見ず知らずの人を助ける」この男に感謝すると同時に、「自分もそういう男になりたい」と思う。それが、誓願寺店で貧乏暮らしゆえに食うものに困っている母子に出会い、それまでの売り溜めをそっくり渡してしまうという行動に走らせたのか。合点がいく演出だ。

それと、そのときに唐茄子を買ってくれた綺麗な女性がいて、徳三郎に「可愛いわね」と言ってくれたというエピソードを挿入している。吉原田圃に出たとき、通常は花魁と仲良くしていたときの回想を入れる噺家がほとんどだが、昇羊さんは一工夫している。「玄人はいけない、素人がいい」として、唐茄子を買ってくれたお姐さんに「また明日会えるかもしれない」と妄想を膨らます。「昨日の唐茄子の煮つけ、召し上がりにきませんか」と誘われ、お口をアーンと広げて食べさせてくれ、そのうちにお酒をやったりとったりして、「私、酔ってきたみたい…」。これはなかなか良い。

もう一つ。売り溜めをそっくり渡してしまったと徳三郎が叔父さんに正直に言うと、叔父さんはこれを疑わない。これも新機軸だ。徳三郎を信用し、また明日頑張れと言って、誓願寺店に行って確かめるようなことはしないのだ。翌日、また徳三郎が唐茄子を売り歩いて、誓願寺店に行ったときに初めて、あのおかみさんが売り溜めを返そうとしたが、これを見つけた因業大家が「店賃の滞っている」と奪ってしまったということを知る。これを苦にしたおかみさんは首を括る騒動があったが、それも収まったと判り一安心するという演出。そこに叔父さんは介在しない。人助けの褒美として青差し五貫文が下しおかれ、徳三郎の勘当は揺れた。それでいいのだと思った。

「一之輔のいまコレ!」に行きました。

突発ギグ 一之輔&呑気グルーブ/演奏 とかげ君/「さとみ」林家彦いち/「掛け声指南」春風亭一之輔/中入り/トーク 一之輔・キッチンミノル/「万両婿」春風亭一之輔

「掛け声指南」、彦いち作品を自分の手中に収めている。一生懸命のムアン・チャイの誠実なキャラクターがとても良く描けており、それが笑いにつながっているところに手腕を感じる。

果実店、シャブ中毒の男、ティッシュ配り、そして末廣亭の見習い修業…これらに独自のギャグも加えて笑わせながら、そこまでの仕込みをムアン・チャイがセコンドとして戻って来たときの逆転劇に繋げていく。細かく刻め、腐るな!シャブを打ちまくれ!左のストレート、胃に食い込むくらいに!右に来たら左、左に来たら右、逃げ道を塞げ!膝を使ってしゃがんで頭を下げろ!懐に飛び込め!古典のオウム返しと同じ手法なのだ。

「万両婿」。最後のお裁きで、大岡越前守が大家に向かって、「お前が一番悪い!」。この噺の核心をしっかりと突いているのが痛快だ。そして、相生屋小四郎が無類の小間物のこととなると周りが見えなくなるほどの小間物マニアという設定も得心がいく。従兄弟の佐吉と小四郎のどっちを選ぶかと問われた女房のおときは「女房よりも小間物に夢中になる小四郎よりも私を大切にしてくれる佐吉さんが好き」というのも、さもありなん。

大岡越前守が若狭屋仁兵衛未亡人のおよしのところに婿入りするように小四郎に道を作ってやる。二十二歳という若さ、器量の良さ、三万両の身代。申し分がなく、喜ぶところ。小四郎は違った。およしの頭に挿してあった簪を見て、「こんな簪、見たことがない!」と飛びつき、婿入りを決めるという…。小間物マニアらしい選択がかえって好感を持てる。だが、それも程度の問題で…という終わり方で一之輔師匠は「これぞ落語」という形にしているところに見識を見る。