八月納涼歌舞伎 通し狂言「怪談牡丹燈籠」、そして「眠駱駝物語 らくだ」

八月納涼歌舞伎に行きました。
第一部 通し狂言 怪談牡丹燈籠
第二部 眠駱駝物語 らくだ/百千鳥沖津白浪 鬼神のお松
第三部 舞鶴雪月花/雪/残月
「牡丹燈籠」。萩原新三郎の下男・下女である伴蔵とお峰の夫婦を軸に、第一幕のお札剥がし、そして第二幕の栗橋宿へと展開させる見せ方が良いと思った。原作には出てこない、お六というお峰と旧知の仲の女友達が意外なキーパーソンになっていることに気づく。これは脚本の大西信行の工夫だろう。
第一幕第五場伴蔵の住居のところで、お峰の仲介で新三郎の家に手伝いに行ったお六が、雇い賃を余計に貰えた礼に酒を持参するシーンがあるが、これが第二幕への伏線だったのか。
伴蔵とお峰はお米の幽霊に対し、百両という金子を持ってきたらお札を剥がすという取り引きをして、新三郎に行水を勧め、その隙に瓦で作った不動像と金無垢の海音如来像をすり替えた上で、新三郎の家の高窓に貼ったお札を剥がす。そのことによって、新三郎はお露とお米の幽霊に憑りつかれ、死んでしまった…。
第二幕は伴蔵とお峰がその百両を元手に、野州栗橋に逃げ延びて、関口屋という荒物屋を開業して、大層繁盛しているところから始まる。その関口屋にお六が訪ねて来たのは、亭主と死別して身の振り方を相談しようと思ったからだ。お峰も旧知の友達がやって来たことを喜び、温かく迎える。
第四場関口屋の店夜更け。縫物をするお峰が、傍らで居眠りをしているお六に声を掛ける。昔、貧乏で苦労していた頃が懐かしいと言うのだ。今は暮らしがよくなった分、罰が当たったのではないか、と。というのも、伴蔵が毎夜笹屋という店に行って、お国という女に入れあげてしまい、夫婦仲が冷めきっていると愚痴をこぼす。お国とのことは馬子の久蔵から洗いざらい聞いて、悔しくてならなかったのだ。
伴蔵が帰宅すると、お峰はお国のことについて嫌味を言い始める。伴蔵は観念し、お国とは別れると約束し、一旦は機嫌が直ったのだが…。お峰がお六が訪ねてきたことを話し出すと、伴蔵は未だに過ぎ去った昔を引きずっていることを咎め、お六など相手にするなと叱責する。すると、再び言い争いになり、お峰は「幽霊から百両を手に入れたこと」を口走り、家を出て行く代わりに百両の金をよこせとまくしたてる。伴蔵は慌てて、お峰がいなくては何ひとつできないと重ねて詫びて、ようやく喧嘩は収まる。
だが、奥にいたお六が騒ぎ出したと手代が報告に来る。お六は「高窓に貼ったお札が…」「金無垢の仏様が…」と訳の分からないことを口走っているという。やがて、お六がやって来て「お札を剥がしてくださいました。早く萩原様のお傍においで遊ばせ」と言いながら、不気味な手招きをする。伴蔵とお峰はただ怯えるばかりだ。お露とお米の霊がお六に乗り移ったという演出だ。
最終的に伴蔵は幸手堤でお峰を殺してしまう。お六の様子から、妙な噂が広まって関八州見廻り役の手先に目を付けられては面倒だと考えたのだ。何も一蓮托生の女房まで殺すこともないだろうと思うが、兎に角自分可愛さゆえに、他人は全員信じられないという悪い了見を起こしたのだろう。大西信行脚本では、お峰と揉み合っているうちに、伴蔵までも死んでしまうと思わせる終わり方にしているのは芝居を完結させなければいけないという物理的理由もあるだろうが、悪党として伴蔵を生き延びさせるのが憚られたのではないかと考えた。
「らくだ」。「四世片岡亀蔵を偲んで」と副題にある。亀蔵は駱駝の馬太郎を当たり役としていた。落語から翻案した歌舞伎だが、落語以上に優れているのが、この馬太郎の部分であり、それを得意にしていた亀蔵の芝居は面白かった。今回、実兄である片岡市蔵が駱駝の馬太郎を演じた。
見せ場は二つ。弔いのために酒と煮物を大家に発注したが、断られたために、手斧目の半次は紙屑買の久六に馬太郎の死骸を背負わせて大家の家へ乗り込む。そして、流行り唄の「カンカンノウ」を久六に歌わせ、半次が死骸を抱えて踊りを踊らせ、因業大家は慌てふためく。
さらに、外から聞こえてきた常磐津の「双面」の音曲に合わせて、不気味な踊りを踊る。流石に参った大家夫婦は半次の要求に従うという…。死骸の役でありながら、馬太郎はまるで生きているかのように体を動かすところ、これは落語では味わえない「らくだ」の魅力であろう。
もう一つは最後。大家から届いた酒を半次が飲み、久六にも勧めると、次第に両者の立場が逆転し、久六が強気になる。死骸を入れる棺桶代わりに八百屋から菜漬けの樽を調達するように半次に命じる久六。半次が拒むと、久六は死骸を半次に背負わせ、八百屋へ行ってカンカンノウを踊らせると言い、自らカンカンノウを歌い、これに合わせて半次の背中の馬太郎が生き返ったように踊るという…。
主役はあくまで半次と久六なのだが、駱駝の馬太郎の存在感がそれを喰ってしまう面白さが、歌舞伎版「らくだ」にはある。改めて四世片岡亀蔵の冥福を祈りたい。

