朝枝の会 春風亭朝枝「猫忠」「井戸の茶碗」、そして神田伊織入門10周年記念講談会「五郎正宗孝子伝」

「朝枝の会~音曲噺の世界」に行きました。春風亭朝枝さんが「宗論」「猫忠」「井戸の茶碗」の三席。ゲスト春風亭一花さんで「味噌豆」、開口一番は柳亭市遼さんで「芋俵」だった。
「猫忠」、ネタおろし。常吉が稽古屋の師匠とでれつきながら酒を飲んでいる様子を節穴から覗き見た次郎吉と六助は、焼き餅妬きの常吉のおかみさんに報告に行くが、常吉は風邪をひいて奥で寝ていた。これは狐狸妖怪の仕業に違いない!と常吉は稽古屋宅へ乗り込む…。次郎吉がお酌の返杯と偽の常吉が伸ばした腕を掴み、耳を触ると、ピョコピョコ!と動いた。
常吉に化けていた猫は「申し上げます…一通りお聞きくださいませ」と、自分の親が三味線になった経緯と哀しみを訴える口上のところが鳴物入り。三味線は田村かよ、太鼓は市遼、それに笛は一花。朝枝さんのしっかりした芝居台詞が、鳴物に乗って鮮やかに決まった。お見事だった。
「井戸の茶碗」。普段は屑より他は扱わない清兵衛が、千代田卜斎の暮らしの困窮ぶりを見かねて、仏像を200文で預かるところが人情家だなあと思わせる。
高木作左衛門が「仏像は買ったが、中の小判は買った覚えはない」と言う理屈は尤もで、千代田卜斎にとっても喉から手が出るほど欲しい五十両だと思うのだが、プライドがそれを拒むという立場もわからないでもない。
一旦手放したモノから出たのだから、それは買い求めた人のモノ。浪人はしていても、武士の誇りは捨てていない。先祖が子孫困窮のときに使うように残してくれたのかもしれないが、そんな大事なお宝を売り払ってしまった私には初めから授からない金だったのだ。現代では到底考えられない千代田氏の理屈だが、それを武士の美学としていた時代があったという、半ばファンタジーとしてこの噺を捉えると理解できるのかもしれないと思った。
神田伊織入門10周年記念講談会に行きました。「結城秀康」「五郎正宗孝子伝」「杉原千畝」の三席。ゲストは神田香織先生で「稲むらの火 濱口梧陵伝」だった。
「五郎正宗孝子伝」。主人公五郎がすごいのは勿論だが、また彼を支える周囲の人々の人情も良いなあと思った。義理の母親の理不尽をじっと耐え忍び、親孝行を尽くすという…それはもはや孝行ではないと思うのだが、五郎の忍耐力には頭が下がる。
腕は良いが貧乏な刀鍛冶、藤三郎行光は森川馬之丞の娘おあきを嫁に貰い、後ろ盾を得た。二人の間には秋太郎という息子がいたが、あまり出来が良くなかった。行光の仕事場によく見学にくる桶屋太郎助のところの小僧、五郎が「刀鍛冶になりたい」と言うので、行光は五両を桶屋に払い、引き取った。
たまたま弟子たちが出払って、行光と五郎が二人きりになったとき。五郎は母のお腹の中にいるときに、父親は行方不明になってしまったので、父親の顔も知らないという。父親が鍛えた九寸五分を残していって、母親も死んでしまったという。その刀を行光が見ると…ハラリと落涙し、「面目ない。その親父というのはこの俺だ」。行光が京都に仕事に行ったときに、ある女性と間違いを起こし、出来た子供が五郎だったのだ。
「よく大きくなった。母さんはさぞ恨んでいたろうな」。五郎と親子であることを名乗りたいが、女房おあきは焼き餅妬き。時節が来るまでは親方・弟子の間柄でいようと思ったが、これを陰でおあきが聞いていた。「酷い人だ」。舅の馬之丞に打ち明け、五郎は秋太郎の弟とことにした。おあきは実の子の秋太郎が愚かで、義理の子の五郎が利口だから、跡目を取られてしまうと思い、五郎を打ったり蹴ったり、苛めた。
あるとき、おあきが患い、床に伏せた。すると、五郎は真夜中に井戸端で水垢離をしている。「おっかさんを助けてください」と願掛けしているのだ。弟子たちはこれを見て感心した。弟子の行平がおあきにこのことを告げると、おあきは礼を言うどころか、「呪い殺すつもりだったのだろう」と五郎を鍋で叩き、折檻した。眉間から流れる血を弟子たちが手当すると、五郎は「どうか、このことは父には内緒にしてください」と言う。
おあきは全快したが、今度は五郎の飯に毒を盛って殺そうとする。事前に知った五郎は飲まず食わずを続け、体調を崩す。そして、坂ノ下の叔父さん(行光の弟の国光)のところに相談に行く。そんなに自分が憎いと思うなら、いっそ死んでしまえば母への孝行になる。だが、そうすると父への親不孝になる。どうすればよいのか。そこへ行光がやって来たので、国光は事情を話す。舅の馬之丞には大恩がある。国光のところで五郎を預かってくれないか。そう話しているところへ、馬之丞が現れ、「事情は分かった。面目ない。孝子の心を知らぬ鬼娘め!」と言って、おあきを叩き斬ると言う。
これを知った五郎はいち早く帰宅し、「おっかさん、逃げてください」とおあきに伝える。しかし、馬之丞が駆け付けたので、五郎は母を庇った。そのために、五郎の背中はバッサリと斬られた。「五郎や!」と叫ぶ行光。虫の息の五郎は「お父っつぁん、お願いがあります。おっかさんから嘘でもいいから『五郎、可愛い』と言うようお願いしてください」。
おあきが憎しみを持っていたことを反省し、刀で自分の喉を突こうとする。それを止めた行光は「五郎の怪我が治るように願掛けをしよう」。行光、おあき、馬之丞、そして弟子たちが皆で祈った。すると、五郎は奇跡的に助かり、傷も治った…そして、宝龍斎正宗として日本一に名工になったという…。香織先生が得意としている演題を今回、伊織さんがネタおろししたが、とても良かった。


