笑二の大ネタ 立川笑二「御神酒徳利」「妾馬」、そして真山隼人ツキイチ独演会「家茂と和宮」

「笑二の大ネタ~立川笑二独演会」に行きました。「御神酒徳利」と「妾馬」の二席。

「御神酒徳利」は三番番頭の善六の女房の機転というところに重点を置いている演出が良い。「駄目番頭」と馬鹿にしている女中のおまめに小言を言うために先祖伝来の家宝、葵の紋の入った御神酒徳利を水瓶に隠したことをすっかり失念してしまった善六に対し、女房が算盤占いを伝授しようとするが、それを覚えられない亭主。そこで、巻物に書いてあったのは、「幽霊の降ろし方」として、女房に易者だった父親が降りてきたことにするという…。

結果、宿泊していた鴻池善右衛門の支配人に「十七になるお嬢様の治癒」を頼まれてしまうが、肝の据わった女房は善六と一緒に大坂への旅に随行する。途中の神奈川宿での島津藩の巾着紛失騒ぎも女房の度胸でなんとか解決してしまう。父親が病に倒れた女中のおきんを救ってやり、新羽屋稲荷も修繕させたことが、さらなる幸運を呼ぶというのも女房のお陰だろう。

鴻池家に到着すると、善六に三七二十一日、水垢離と断食をさせた上で「幽霊が降りてこない」と言えば諦めもつくだろうと腹を括るのも女房の裁量だ。果たして、新羽屋稲荷大明神が降りてきて、観音様の仏像の在り処が判り、そのご利益によって鴻池お嬢様病気が平癒する。すべて善六の女房の機転が幸運を呼んだというストーリーにまとめあげる笑二さんのセンスが光る。

「妾馬」はいくら相手が殿様とはいえ、妹の鶴を妾にしたいと一方的に奪い取られた八五郎の不満が良い。八五郎と鶴の兄妹の両親は早くに亡くなり、大家がそれこそ親同様に育ててくれたという設定だ。だが、八五郎に無断で妾の話をまとめてしまった大家は良くない。八五郎が言う。「お鶴が幸せになる?本当に幸せになれるのか?」。尤もだ。

お鶴がお世継ぎを産んで、八五郎は殿様の屋敷を訪ねたときもそうだ。殿様に対し、八五郎が言う。あなたのことが好きじゃなかった。二人の兄妹を引き裂くように、勝手にお鶴を持って行った。でも、安心した。あなたで良かった。いい人だ。お鶴は元気にしていますか?守ってください。筋を通せばわかる男なのだ、八五郎は。

お鶴に対面してからのやりとりも良い。糊屋の婆さんが「初孫だ!」と喜んでいた。お鶴は長屋の皆で育てた子どものようなもの。私にとっても初孫だと。俺はお前に謝らなくちゃいけないことがある。お前のことを悪く言った。俺を見捨てた恩知らずだと。怒られちゃった。何で、お鶴ちゃんが出ていったのか。お前のせいだと。お前はちゃんと働いて金を稼いでいない。お鶴ちゃんは自分が傍にいるとお兄ちゃんが駄目になると思って、屋敷に行ったんじゃないか。すまない、この通りだ。お前のお陰で、俺は博奕をやめて、働いて、金を貯めている。

兄らしいことは何もしていない。お前の本当の家族は長屋の連中なんだ。あいつらも孫の顔を見たいだろうな。身分の違いは寂しいな。そう八五郎が言うと、お鶴は殿様にお願いする。殿様は「わかった。八五郎の長屋の者に世継ぎの目通りを許す」。素敵な人情美談に仕上がっていた。

「真山隼人ツキイチ独演会」に行きました。「水戸黄門 金賭道場」「エッセイ浪曲 沢村さくらと山形公演」「家茂と和宮」の三席。

「家茂と和宮」。将軍徳川家茂と正室の和宮の夫婦愛が描かれていて、とても良かった。家茂は和宮の兄である帝の命により、京洛へ向かうことに。土産は何が良いかと訊くと、「西陣の着物」と和宮は答えた。

家茂は松本老中を連れて、妻との約束を果たそうと大坂城から京に西陣を求めに出掛けるが、そこで人混みを見かける。写真機に群がっているのだ。内田九一という技師が写真を撮っている。松本老中が「土産に一枚写されては」と持ち掛けるが、「やめておこう」と家茂は言う。

確かに生き写しだ。だが、魂までも抜き取ることはできない。思い上がった傲慢だ。写真を写す人間の気持ちを考えたことがあるか。

九一は天狗の鼻をへし折られた気持ちになった。見てくればかりに気をとられ、撮られる人のことを考えていなかったと反省する。家茂は「心からの写真が撮れるようになったら、私が最初の客になろう。努力したまえ」。

以来、九一は「心からの写真」を撮ろうと、一生懸命になった。髭を伸ばし、顔は痩せ、それでも淀川堤で「写真を撮れせてください」と努力した。

内戦が激化し、家茂は病気が悪化。松本老中が手を尽くしたが、次第に痩せ細っていくばかりだ。このとき、家茂は「九一を呼んでまいれ」。心の底からの写真を撮ることが出来るか。九一は一心不乱に写真を撮ることにした。「お久しぶりです」「良い顔になったな。遠慮はいらぬ。わしの思いを写真に留めてくれ。頼んだぞ」。

江戸城にいる和宮の許に西陣の着物が届いた。それは家茂の形見となった。そして、それに続いて、内田九一が家茂の写真を持参した。「ご覧ください」。和宮はこれを見て、ハラハラと涙をこぼした。「お帰りなさいませ」。

現在も和宮の墓には亡骸が写真を抱いて眠っているという…。素敵な夫婦愛を感じることができた。