【大相撲秋場所】大の里が豊昇龍との優勝決定戦を制し、5回目の優勝

大相撲秋場所は千秋楽、大の里が豊昇龍との横綱同士の優勝決定戦を制し、13勝2敗で5回目、横綱としては初めての優勝を決めた。

本割結びの一番、2敗の豊昇龍が1敗の大の里に対して、立ち合い両手突きから一気に攻めて寄り切って破り、賜杯の行方は2敗同士の優勝決定戦に持ち込まれた。実に16年ぶりの横綱同士の決定戦。大の里が右を差して攻め、豊昇龍が上手投げを打って土俵際もつれこみ、物言いがつく相撲となったが軍配通り、大の里が寄り倒しで優勝を掴んだ。

今場所を振り返ると、11日目まで豊昇龍が白星を重ね、優勝争いのトップに立っていた。鋭い立ち合いから一気に攻める相撲に加え、足腰の良さを生かした投げも冴え、このまま突き進むかに見えた。ところが、12日目小結・安青錦の切り返しに苦杯を舐め、13日目に大関・琴櫻にはあっけなく寄り切られ連敗。

逆に優勝争いのトップに立ったのが大の里だった。4日目に伯桜鵬に突き落としで不覚を取った以外は“これぞ横綱相撲”という圧倒的な馬力と安定感で勝ち進んだ。相手力士を寄せ付けないパワー相撲は場所ごとに進化を続けている。千秋楽本割では優勝を意識し過ぎたのか、豊昇龍にお株を奪われる両手突きを許して破れたが、決定戦では見事に立て直して先輩横綱より先に横綱として初めての賜杯を抱いた。

このように東西両横綱を中心に優勝争いが展開した、大相撲が本来あるべき姿に戻った形だが、土俵を沸かした力士として、まず挙げたいのが安青錦だ。安定した下半身で下から下から攻め続け、決して前に落ちない取り口は昭和30年代に活躍して“潜航艇”という異名を取った岩風を思い出すオールドファンも多いだろう。文句なしの技能賞だ。特に12日目の豊昇龍戦では終始攻めを止めず、横綱が思わず引いて呼び込んだところを食らいついての切り返し。先場所に続いて豊昇龍を破った一番は賞賛に値する相撲だ。これで新入幕から4場所連続で11勝4敗の好成績、このまま一気に大関に駆け上がる勢いを感じた。

平幕の隆の勝も活躍した。12勝3敗で敢闘賞。横綱との対戦こそなかったが、前へ出る相撲に徹して、大関・琴櫻、関脇・霧島と若隆景を破っている。去年名古屋場所で横綱・照ノ富士と優勝決定戦を戦った実力が目を覚ましたといっても過言ではないだろう。

同じく平幕の伯桜鵬が殊勲賞。大の里を破って金星を挙げたことが評価されての受賞だ。大の里と互角に攻め合い、最後は土俵際逆転の突き落とし。先場所に続いての大の里からの金星だ。一昨年名古屋場所で優勝争いを演じたときから逸材であることは誰もが認めるところだが、怪我で一旦十両に陥落して幕内に復帰してからの土俵はどこか歯痒いところがある。千秋楽に勝ち越して受賞を決めたわけだが、これを契機にあのときの強い相撲が戻ってくることを期待したい。

前頭2枚目の王鵬が二桁勝利を挙げ、今年春場所以来の関脇に返り咲くことが濃厚だ。前へ出る相撲だけでなく、不利な体勢でも逆転の投げ技を見せるなど、取り口が多彩になっている。負けん気の強さも大きな魅力のひとつだ。来場所は安青錦と王鵬の二人の関脇が大関獲りを巡って土俵を盛り上げていくような気がする。楽しみだ。

大関の琴櫻が14日目から休場した。13日目に豊昇龍を寄り切ったときに右膝を負傷したとのことで、全治3週間。先場所まで8勝7敗の土俵が3場所続いていたが、今場所は相撲に積極性が見えて、復調の兆しを思わせていただけに、来場所以降の活躍を祈る。

関脇の若隆景は成績次第では大関が狙える場所だったが、結果は6勝9敗と振り出しに戻った。左おっつけ、右差しの相撲の巧さは定評だが、相手を圧倒する馬力に欠けるように感じる。同じ関脇の霧島も6勝9敗と三役から陥落が確定的だ。初日から4連勝したときは「強い霧島が戻ったか」と思わせたが、その後は負けがこんだ。相撲に波があるようでは大関復帰は望めない。両力士とも優勝経験のある実力派だ。新規巻き直しに懸けたい。

三賞候補にはのぼらなかったが、二桁の星を挙げた宇良の相撲は相変わらず土俵を沸かした。何をしてくるかわからない業師の側面に加え、今場所は真っ直ぐに攻めて勝負を決める相撲も目立ち、それが白星につながったのだと思う。それゆえの人気力士が来場所は幕内上位に番付を上げて、横綱大関と対戦すると思われる。大いに楽しみである。

新十両の朝白龍が13勝2敗で十両優勝を決めた。新十両の優勝は今年春場所の草野以来である。草野は翌場所も十両優勝して入幕、今場所は前頭6枚目に上がって、初土俵以来6場所連続の勝ち越しを決めた。こうした新鋭がどんどん上位に進出して、土俵を沸かしてくれるのは嬉しい。朝白龍と同じ高砂部屋の朝乃山も再十両で12勝3敗の成績だった。元大関の復活にも期待を寄せたい。

さあ、来場所は一年納めの九州場所。大の里がこの勢いを維持して、強い横綱の名をほしいままにするのか。豊昇龍が先輩横綱として意地を見せるのか。はたまた、成長著しい安青錦が優勝争いに絡んでくるのか。平幕力士の活躍にも目が離せない。楽しみにしたい。