スナックヒヤシンス祭り 林家きく麿「じゅんこの初恋」「ヒヤシンス内部崩壊」

上野鈴本演芸場九月中席三日目夜の部に行きました。今席は林家きく麿師匠が主任を勤め、「スナックヒヤシンス祭り」と銘打った興行だ。きょうは日替わりゲストが古今亭文菊師匠、きく麿師匠は第4話「じゅんこの初恋」だった。

「十徳」林家十八/「鷺取り」春風亭一蔵/太神楽 翁家勝丸/「アジアそば」三遊亭白鳥/「金明竹」隅田川馬石/漫才 ロケット団/「鯛」柳家はん治/「明るい選挙」林家木久扇/「スナックヒヤシンス①じゅんことあきこ」古今亭文菊/中入り/民謡 立花家あまね/「移動日」古今亭駒治/紙切り 林家楽一/「スナックヒヤシンス④じゅんこの初恋」林家きく麿

文菊師匠、「逃げも隠れもしません」と宣言して噺に入る。柿ピーを食べる仕草が始まると、もう客席は爆笑の渦になるのが面白い。お花見で大学生から貰った柿ピーなのに、「小鉢に入れれば800円になる」と言うママに、アキコが「ケチリンコ!」。もう、それだけでファニーな「きく麿ワールド」が広がる技量は人物造型がしっかりしているからだろう。

「はじまるよ!ヤマダの悪口はじまるよ!」「キモイ、キモイ、キモーイ!クサイ、クサイ、クサーイ!」「おかわり、おかわり、ヤマダの嫌いなとこ挙げて。ハーイ、ハイ、ハーイ、ハイ、ハイ」。腰に手を当てたり、手をグルグル回したり、両手を広げたり。定番のアクションをしっかりと自分にものとしてこなす文菊師匠の芸の確かさ。悪口を途中でやめると引き付けを起こすママの表情も良い。

ヤマダの「恋のオーライ坂道発進」、舌をレロレロしながらの歌唱もバッチリ。♬二人の恋の半クラッチ~と歌いあげ、「あなた、とうとう古典を棄てたのね」「新作に魂を売ったのね」と自分で自分を突っ込むところ、最高に可笑しい。「びびくりマンボ!令和七年」のフレーズも笑った。

きく麿師匠の第4話。ジュンコがスナックヒヤシンスを開業する以前、スナック松竹梅で働いていたときのママ、ウメコが92歳で大往生したときの通夜に出席したジュンコとアキコ。そこで、ジュンコは「久しぶりです」とある男に声を掛けられる。松竹梅の常連客だったマルヤマだ。同じく通夜に列席していたキョウコがアキコにこっそり「昔、あの二人は付き合っていて、親に反対されて、駆け落ちしそうになったことがある」と知らされるが…。

数日後、マルヤマがスナックヒヤシンスに来店する。ジュンコが「あの歌を歌ってくださいよ」とリクエストして、マルヤマは「リンゴの唄」を歌う。剥いたリンゴを齧りつつ、夢を語った午後三時、皮つきリンゴもあるけれど、剥いたリンゴがあるのなら、やっぱり剥いたノンピール…。相変わらず変な歌が面白い。

アキコがストレートにマルヤマに「ジュンコママと付き合っていたのか」を訊くと、マルヤマは「何回かデートしたことはあるけれど…僕が金持ちなので毎回1万円貸してと言われ、都合30万円貸したきり、返してもらっていない」と衝撃の発言。ジュンコは慌てて、「それはもう時効だ!返さない!」と言い張る。

そこへ、常連のヤマダが来店。バスツアーで聞いた「ワンマンバスの女」が気に入ったので歌いたいと歌う。その歌声を聞いたマルヤマが「キヨシじゃないか!」「あ、マルヤマの叔父さん!」。何と、マルヤマはヤマダの母親の実弟だということがわかったという…。さあ、この先どんな展開が待っているのか。面白い。

上野鈴本演芸場九月中席四日目夜の部に行きました。今席は林家きく麿師匠が主任を勤め、「スナックヒヤシンス祭り」と銘打った興行だ。きょうは日替わりゲストが柳家三三師匠、きく麿師匠は第5話「ヒヤシンス内部崩壊」だった。

「寿限無」翁家丸果/「短命」春風亭一蔵/太神楽 翁家勝丸/「千早ふる」橘家文蔵/「元犬」隅田川馬石/漫才 ロケット団/「妻の旅行」柳家はん治/「スナックヒヤシンス①じゅんことあきこ」柳家三三/中入り/ウクレレ漫談 ウクレレえいじ/「寄席避難訓練」古今亭志ん五/紙切り 林家楽一/「スナックヒヤシンス⑤ヒヤシンス内部崩壊」林家きく麿

三三師匠。おもむろに柿ピーを食べる仕草から噺に入ると、もう客席から笑いが起きる。師匠も「何で、柿ピーを食べるだけで笑うの?」と嬉しそう。ジュンコが花見で大学生から貰った柿ピー、そのときの大学生の「ヤバイぜ、あのばあさん、俺の死んだじいさんにそっくりだ」というフレーズで爆笑。貰った柿ピーを食べて何が悪いと居直るアキコに対し、「文句を言うなら、このカウンターをいっぱいにしてから言いなさい!店を開いて40年、スナックヒヤシンスのママ、ジュンコですぞ!」。もうこれだけできく麿ワールドが三三師匠の掌に乗っかる。

「暇だからアレ、やりますか」と、はじまるよ!ヤマダの悪口はじまるよ!腰に両手を当てて、ノリノリで腰を振る。キモイとクサイの連発が愉しい。ポロシャツを着ると、ピッチリしていて気持ち悪い件。雪見大福、萩の月、パンダの赤ちゃんとフルバージョンに加え、白いポロシャツに醤油を溢したのが目立つというオリジナルも入り、面白い。ヒロコが悪口はやめた方がいいと止めると、ジュンコママが引き付けを起こすところを丁寧に演り、「黒紋付でやる芸じゃない」(笑)。

ヤマダがヒロコと結婚すると報告したときの、ジュンコママの「びびくりマンボ!令和七年鈴本演芸場スナックヒヤシンス祭り!」というフレーズが最高。ヒロコが耳の裏の匂いが自分のおじいちゃんにそっくりと言うと、「おじいちゃんに謝りなさい!」。本寸法の基礎が出来ている実力者の手腕を見た。

きく麿師匠の第5話。キョウコという新戦力が入り、月の売り上げが20倍に増えたスナックヒヤシンス。彼女はお客から歌う曲のリクエストを取り、「赤いスイートピー」「コーヒールンバ」「隅田川」と三つ挙がるが、歌うのは決まって「夢のつづき」という不思議な歌。右の瞼を閉じれば良い夢が、左の瞼を閉じれば泣ける夢が見える、夜の女の午後三時、普通の女の十一時、燃えないゴミがまた増える~。きく麿師匠の真骨頂だ。

キョウコはアキコに話す。私は幼い頃に両親を亡くし、施設で育った。だから、アキコさんがお姉さんのような存在で嬉しい。そう言って、田舎の新潟土産の柿の種と千葉八街産のピーナッツを渡す。そして、相談があると言って、ジュンコママの悪口を言って、「でもいいんです。私が我慢すればいいから」。

同じようにキョウコはジュンコに話す。ジュンコさんがお姉さんのような存在で有難い。そう言って、おばあちゃんが使っていた膝が痛いときに飲むといい薬を渡す。そして、相談があると言って、アキコの悪口を言って、「でもいいんです。私が我慢すればいいから」。

これを受けて、ジュンコとアキコの壮絶な罵り合いがはじまる。アキコはトイレットペーパーを無断で持ち出しているとか、お年賀の手拭いで褌を作って2500円で売っているとか、湯呑を洗うのに洗剤を使わずに米糠を使っているとか。ジュンコはアキコの郵便受けに水道会社の冷蔵庫に貼るマグネットを嫌がらせのように投函しているとか、不用品回収業者の冷蔵庫に貼るマグネットも同じように投函しているとか…。

だが、それらはキョウコが仕組んだ罠だったことが判明。二人は「キョウコの悪口、はじまるよ!」と逆に盛り上がる。「隠れて煙草を吸っている」「ビールが飲めないふりしている」…。キョウコはヤマダが通う店を潰したいと企んでいたのだった…。

そして、ヤマダが来店したことで、衝撃の事実が判明する。キョウコはヒロコの妹だった!なるほど、それでヤマダに恨みを持って、スナックヒヤシンスごと潰しにかかったのか!ジュンコとアキコは「キョウコが大嫌い」ということで意見が一致して、団結するのだった…。