渋谷らくご しゃべっちゃいなよ、そして天中軒すみれ「陰陽師 琵琶玄象」

配信で「渋谷らくご しゃべっちゃいなよ」を観ました。若手噺家が新作ネタおろしに挑む隔月の会だ。
「評論家」林家きよ彦
代々評論家の家系だというナオキの「売れているものを売れているねと評価して安心感を与える」のが評論家の仕事だという持論、皮肉で面白い。これに対し、元彼女のヨーコが「評論家を評論する」ことを始めたというのがユニークだ。SNSが発達し、“一億総評論家”時代となっている現代を象徴するような創作だと思った。
「御人式」三遊亭ぐんま
「おじんしき」と読む。役所から成人式ならぬ「おじん式」の招待状が届いた。つまりは、あなたはおじさんですよという報せだ。その人が「おじさん」かどうかは、年齢ではなく、その人の言動で判定されるという…。いわゆる「おじさんあるある」を認定試験という形で見せて笑わせてくれた。
「ハミングがきこえる」春風一刀
条件の良いマンションに安価で入居することができて喜んでいたら、これがいわゆる“事故物件”で幽霊が出るというよくあるパターン。ロングヘアーでワンピースを着た女性がウィスパーボイスで何かを叫んでいる…。イタコとユタの両方を先祖に持つ友人にはその幽霊が見え、会話ができるという。そのやりとりに様々なクスグリを挿入しているのが肝なのだが、世代間格差なのかほとんど理解できなかったのが残念だった。
「幽霊たち」笑福亭羽光
高校時代、陰キャで目立たない存在だったナカムラが同窓会に出席するが…。3年前に事故死した一番の人気者だったタナカ、ナカムラと顔がよく似ていて間違えられていた1年前に事故死したコバヤシ、生きていたら90歳は超えているだろミヤウチ先生、皆が出席している。マドンナ的存在だったイザワユキコは死んでいる幽霊たちと会話し、生きているナカムラのことは何も覚えていないという…。孤独を愛した男が人と接する大切さを学んだという教訓が良かった。
天中軒すみれの「浪曲 陰陽師 琵琶玄象」に行きました。
夢枕獏先生の「陰陽師」を原作にした浪曲にすみれさんが挑む第一弾。衣裳もそうだが、曲師の広沢美舟さんと二人で研究を重ねて陰陽師の世界観を大切にした浪曲に仕上げたことに感心した。浪曲に新しい息吹を吹き込んでいる。
帝の宝である琵琶玄象が何者かに盗まれた。宮中で働く源博雅はあるとき、羅生門の上から琵琶玄象の音色と思われる悲しくも美しい調べが聞こえていることに気づく。博雅は友人である天文博士の安倍晴明に相談に行き、その正体を突き止めようということになる。
果たして、音色の主は天竺からやって来た漢多太という男だった。王の妾の子として生まれたという漢多太は唐を経て、この日本にやって来たのだという。天竺に残した妻スーリアに生き写しの女官、玉草を見初め、琵琶玄象を返す代わりに、その女官と一晩だけでよいから契りを結びたいと願う。
安倍晴明はこれを「呪」(しゅ)だと読み取った。そして、漢多太に玉草を差し出し、琵琶玄象を受け取った。だが、玉草は幻だった。晴明は漢多太は鬼であることを見抜いたのだった。「騙したな!」。狂える鬼となった漢多太は血の涙を流し、歯向かって来た。晴明は刀で漢多太を刺し殺す。そこには犬の首が転がり、白骨となった。
あれが「呪」なのか?取り戻した琵琶玄象は宮中が火事になっても無事だったという。陰陽師の不思議な雰囲気に包まれた、新しい浪曲を観た。