立川談吉ひとり会「竹とんぼ」、そして貞鏡のネタおろしor虫干しの会 一龍斎貞鏡「新門辰五郎 おぬいの義侠」

立川談吉ひとり会に行きました。「天災」「竹とんぼ」「ろくろ首」の三席。

「竹とんぼ」は渋谷らくごの「しゃべっちゃいなよ」ネタ下ろしで聴いて以来。ファンタジーだ。フリーマーケットでNASA製のキャベツと亀の子タワシとLED電球を買ったおじいさんは、ベーゴマや万華鏡や風車を見つけて、よく子どもの頃にケンちゃんと遊んだことを思い出し、ケンちゃんが竹とんぼを飛ばすのが名人だったと振り返る。

そして、帰り道に河川敷の橋の下のゴミの山に埋もれているペガサスを発見する。馬のようだが、翼が生えている。星から降りて来たときに、ヘリコプターに傷つけられ、この粗大ゴミの中に落ちた。何とか助けてあげたいと思うおじいさんは、ペガサスにキャベツを食べさせてあげる。そして、あの竹とんぼの原理で空に飛ばしてあげようと考える。

「力じゃないんだ。技なんだ」。そう言って、おじいさんはペガサスを後ろ足だけでクーラーボックスの上に立たせ、後ろ足二本をまとめて軸にして、ゴリゴリと回転させる。ペガサスは複雑骨折をしながら回って、青い光を発しながら月灯りの向こうに飛んでいった…。

じいさんは帰宅後に、お茶を飲みながら、ばあさんにその話をした。ペガサスを竹とんぼのように飛ばした話を。ばあさんは「おじいさんは名人ですね」と褒めた。とてもほのぼのする“談吉寓話”である。

「ろくろ首」。お嬢様の首が夜中に伸びて、行燈の油を舐めるのを見てしまった与太郎は叔父さんのところに逃げた。すると、お嬢様が与太郎を追いかけてきた。「首が伸びるのは気持ち悪いですよね」というお嬢様に対し、与太郎は否定する。「首が伸びるのは構わない。でも、行燈の油を舐めるのはよくないと思う」。すると、お嬢様は「では、油を舐めるのは我慢します。数年かかるかもしれませんが。それで戻ってきてくれますか」。与太郎は「わかりました。何年かかろうが、首を長くして待っています」というハッピーエンド。これは素敵である。ろくろ首だからと言って、化け物扱いして差別したりしない与太郎が良い。

なお、談吉さんは22日、来年3月1日付で真打に昇進し、立川談寛を襲名することを発表されました。おめでとうございます!

「貞鏡のネタおろしor虫干しの会~一龍斎貞鏡独演会」に行きました。「しばられ地蔵」と「新門辰五郎 おぬいの義侠」の二席。

「しばられ地蔵」は貞鏡先生では初めて聴いたのだが、これまで聴いてきた「しばられ地蔵」とは趣が違って良かった。大岡越前守の名裁きが眼目のように思われてしまいがちだが、きょうの高座はそこに恋愛が絡む。すなわち、山形屋源左衛門の一人娘のお浜と奉公人の喜之助の身分違いの恋が描かれて、単なるお裁き物の味わいにさらなる深い味わいが加わって、とても良かった。

日本橋の木綿問屋の奉公人、喜之助は五十五反の晒を本所柳橋まで届ける際に、途中業平橋のお地蔵様の横で休息を取った。うっかり居眠りをしてしまい、晒が丸ごと盗まれてしまった。旦那に報告しなければ…と店の前を右往左往していたら、一番番頭の又兵衛に見つかってしまう。正直に盗難の件を話すと、「お前は金に換えて好きな女に貢いだのだろう」と疑われ、暇を言い渡されてしまう。だが、山形屋の娘お浜は「喜之助はそんなことをする男ではない」と弁護する。又兵衛はお浜に惚れているのだが、お浜は喜之助に惚れているという背景がそこにはある。

喜之助は困って、南町奉行の大岡越前守に訴える。すると越前守は業平橋の地蔵尊に縄を掛け、大八車で運び、お白洲で裁くことにする。物見高い江戸っ子連中は見物に訪れ、400人近くになった。地蔵尊に晒の行方を問い質す越前守を見物人たちは嘲笑った。すると、越前守は奉行を侮辱したとして、見物人一人一人に過料として晒二反を名前と住所とともに提出させた。

800反もの晒を一反ずつ検めると、123反目に山形屋の印である入り山形に源の印の入った晒が見つかる。提出したのは又六という男で、榊屋という店で買い求めたという。榊屋に問い合わせると、五十五反の晒を持ち込んだ御家人から仕入れたことが判り、真犯人が判明した。その御家人は博奕でスッテンテンになって罪を犯したことを自白した。

これで喜之助の罪は晴れた。と同時に、山形屋源左衛門は越前守にお願いをする。一人娘のお浜と奉公人の喜之助が身分違いを理由に夫婦になることを遠慮している、どうかお奉行様の沙汰で夫婦になるよう命じてほしい、と。越前守は親心を承知して、めでたくお浜と喜之助は夫婦となり、益々稼業に精を出したという…。以来、この業平橋の地蔵尊は縁結びの神として崇められ、場所を南蔵院に移して今も信仰されていると結んだ。爽やかな高座だった。

「新門辰五郎 おぬいの義侠」は初めて聴いた。おぬいの夫辰五郎を思う気持ちがこれほどまでに強かったとは…。人情を超えて、義侠という言葉が相応しい読み物だなあと思った。

お組の鳶頭の辰五郎は元芸者のおぬいに惚れられ、夫婦になった。ある日、御徒町で火事が起き、子分の留吉から報告を受けた辰五郎は現場へ急行する。やがて、火事は収まったが、辰五郎は戸板に寝かされて血だらけになって帰って来た。留吉の話によれば、「は組の伝五郎に火事場に突き落とされた」のだという。おぬいは以前、伝五郎を袖にしたことがあり、それを恨みに思ったのかと気づく。仇を討ってやる!

辰五郎の火傷の治療には50両の薬代と医者代がかかるという。困った。そこに以前神田明神で辰五郎に世話になったという駿河台の甚兵衛という男が娘のお花を連れて訪ねて来た。そして、お花を預け、辰五郎の看病をさせてくれと言って去って行った。容態は少し良くなったが、薬がないので傷が治らない。おぬいとお花が懸命になって看病した。

ある日、おぬいが書置きを置いて出て行ってしまった。「もう治る見込みがない。心細い。私は昔の贔屓を頼って安楽に暮らします。どうぞ、お花を女房にしてください」。これを見た留吉は怒った。「俺が口添えして夫婦になった。申し訳ない」。お花は浅草観音様に裸足参りをすることにした。

10日後。観音様にお花がお参りの途中、縞の着物に頭巾をした男が近づき、「なぜ裸足参りをしているのか」を訊ねた。仔細を聞いた男は「50両あればいいんですね。差し上げます」と言って、お花に50両を渡す。「お名前は?」と問うが、「名乗るほどの者ではございません」と言って去って行った。これも観音様のお恵みか…。そう思い、その50両で医者にかかり、薬を求めて服薬すると、辰五郎の傷はすっかり良くなった。

ある日、吉原の長谷川でお組とる組の寄り合いがあった。お組からは辰五郎の名代として、養父の仁右衛門と留吉が出席した。その場に芸者が入った。なんと、おぬいである。仁右衛門は「芸者は浮気な稼業だから、おれはおぬいと辰五郎の縁談に承知しなかったんだ。よくも煮え湯を飲ませるような真似をしたな!」と憤る。

すると山村屋のお勝という芸者が「浮気な稼業?よくそんなことを抜かすね。この、木偶の棒!」。そう言って、「本当は墓場にまで持っていこうと思っていた」という話を始める。

辰五郎がどうして治ったか。薬は誰のお陰で買えたのか。あの50両はおぬいの体から出た金だよ。頭巾をかぶってお花に50両を渡した男こそ、おぬいだよ。おぬいは辰五郎の容態を見て、「自分の身を売ろう」と、わざと愛想尽かしのふりをした手紙を残したんだよ。

この話を聞いて、留吉は「許してください、姐さん。すまなかった」。仁右衛門も「必ず身請けして、辰五郎に戻す」と約束をした。そして、おぬいは晴れて辰五郎の許に戻り、夫婦としてやり直したという…。義侠心溢れるおぬいに胸が熱くなった。