お客様のおかげで昨年の企画が受賞理由になりました。なので、今年の企画のネタもお願いします 柳家喬太郎「品川発廿三時廿七分」「落語の大学」

上野鈴本演芸場七月上席九日目夜の部に行きました。今席は柳家喬太郎師匠が主任を勤め、「お客様のおかげで昨年の企画が受賞理由になりました。なので、今年の企画のネタもお願いします」と銘打った特別ネタ出し興行だ。きょうは古典落語部門第1位の「品川発廿三時廿七分」だった。

「狸札」柳家小太郎/ジャグリング ストレート松浦/「締め込み」柳家喬之助/「ホームランの約束」春風亭百栄/三味線漫談 林家あずみ/「そば清」柳家さん喬/「七段目」松柳亭鶴枝/中入り/紙切り 林家二楽・八楽/「睨み合い」林家彦いち/「粗忽の釘」五街道雲助/ものまね 江戸家猫八/「品川発廿三時廿七分」柳家喬太郎

喬太郎師匠の「品川発廿三時廿七分」は、三遊亭円朝作「離魂病」の第三話。第一話「お若伊之助」、第二話「一中節門付け」の概略を語ってから噺に入った。九月の「扇辰・喬太郎の会」で最終話をネタおろしすることになっているので、その予習にもなって良かった。

日本橋横山町の栄屋の一人娘、お若は一中節の稽古を菅野伊之助につけて貰っていたが、深い仲になってしまった。手切れ金を渡して伊之助と別れさせ、お若は下根岸に住む剣術師で叔父の高根晋斎の許に預けられるが、狸が伊之助に化けてたぶらかされ、懐妊してしまう。高根が狸をピストルで撃ち殺すが、男女の双子が生まれて、それぞれ里親に出される。

以後、お若は高根の道場の近くの一軒家で出家はしていないが、尼のように念仏を唱える毎日を過ごしていた。ある日、一中節の門付けをしている男と巡り会うと、果たして男は伊之助だった。聞けば、吉原の女と所帯を持ったが、身罷ってしまったという。「新しくはじまるんです。いいじゃありませんか」とお若は伊之助に思いをぶつけ、二人は再び男女の仲になった。

だが、高根の弟子が男物の履物を見つけ、伊之助との仲が知られてしまう。「連れて逃げてください」と言うお若に従って、伊之助は下谷の上州屋という宿を訪ねるようにと約束する。伊之助の育ての親が住む神奈川宿に行こうという目論見だ。お若は「叔父に勘付かれた」と言って、約束の時間より早くに上州屋に行き、二人は俥に乗って新橋駅へと向かった。

寸でのところで20:10発の横浜方面へ行く汽車に乗り遅れた。次の汽車は21:10発だ。だが、誰か追っ手が来ているような気がして落ち着かない。20:55発の赤羽行きで品川へ出て、品川から神奈川へ向かうことにした。ところが、品川に到着して間もなく、「火事だ!」の声。品川駅の雑踏は混乱し、手を繋いでいたお若と伊之助だが、離れ離れになってしまう。「伊之さん!」といくら叫んでも見つからない。

品川の遊郭で遊んでいた男がお若の姿を見つける。男は以前、大工をしていて、下根岸の高根晋斎の道場の普請をしたことがあった。そのときに、お若を見て一目惚れして、しつこくつきまとったために、親方から首になった前歴のある勘太という男である。「伊之さんなしでは生きていけない。この気持ちは抑えきれない」と考えたお若は神奈川行きの切符を一枚買った。その様子を見て、勘太は「こんな夜遅くに女が一人というのはおかしい」と思い、「お嬢さん!お伴しますぜ」と声をかけた。

「下根岸のお嬢さんでしょう。叔父さんから探してくれと頼まれた」と出まかせを言う勘太をお若は何とか振り切って、23:27発の汽車に乗り込んだ。「何とかまくことができた」。そして、神奈川駅に到着。だが、伊之助はいない。とぼとぼと宛てもなく歩いていると、後ろから声がする。「お嬢さん、探しましたぜ。こんな夜中に一人は危ない」。勘太だ。

お若は勘太を突いて、尻餅をつかせると、夢中で駆けて逃げる。すると、前に歩いている爺さんにぶつかった。「助けてください!悪い者に追われているんです」。ここまで来た事情を爺さんに話すと、「伊之助…それはわしが知っている伊之助に違いない」。爺さんの名前は甚兵衛と言って、伊之助の育ての親だったのだ。

追いかけて来た勘太がお若をよこせと迫る。「その女は品川女郎の足抜けだ」と、また出まかせを言う。甚兵衛が提灯で勘太を照らすと、それは勘当した実の息子だった。「いつまでも腰の据わらぬ奴じゃ!俺はお前を生涯許さない」。勘太、退散だ。

翌日になると、伊之助も甚兵衛夫婦のところにやって来て、一件落着。お若と伊之助を匿ってやり、二人は百姓をして二回り(24年)を幸せに過ごした。だが、この後、とんでもない悪いことが起きる…それはまたの機会に申し上げますと締めた。九月の「離魂病」最終話が楽しみである。

上野鈴本演芸場七月上席千秋楽夜の部に行きました。今席は柳家喬太郎師匠が主任を勤め、「お客様のおかげで昨年の企画が受賞理由になりました。なので、今年の企画のネタもお願いします」と銘打った特別ネタ出し興行だ。きょうは新作・改作落語部門第1位の「落語の大学」だった。

「粗忽の釘」柳家小太郎/ジャグリング ストレート松浦/「初天神」柳家喬之助/「生徒の作文」春風亭百栄/アコーディオン漫談 遠峰あこ/「天狗裁き」柳家さん喬/「洒落小町」松柳亭鶴枝/中入り/紙切り 林家二楽・八楽/「掛け声指南」林家彦いち/「お菊の皿」五街道雲助/ものまね 江戸家猫八/「落語の大学」柳家喬太郎

喬太郎師匠の「落語の大学」は日大落研時代の同期である中根篤さんの作品。大学時代の思い出を沢山喋ってから、本編に入った。

落語大学という落語協会が学校法人になったという架空が面白い。校門が大門で見返り柳があって、校歌は月替わり。先月は♬鐘がゴンと鳴りゃあ上げ潮南さあ~、「野ざらし」の唄だ。そして、今月は新作系。何と、東京ホテトル音頭を気持ち良さそうに歌う喬太郎師匠、昨日の緊迫した高座とは180度真逆のリラックスムードだ。

授業も各種。消費者構造理論は蕎麦や甕の勘定を誤魔化す理論について学ぶ。動物生態学は首長鳥がなぜ鶴になったのか、死んだライオンに入って動物園の檻の中をどう歩き回るのか等を学ぶ。古典芸能研究は担当教授の義太夫が下手でいけない。

サークルも色々ある。人力車を曳くサークルは、習得すれば雷門前の車夫のバイトを斡旋してくれる。「冗談言っちゃいけねえ!」の言い回しを何度も稽古して、テクニックを学ぶサークル、「冗研」。「死語研」は、「毎度馬鹿馬鹿しいお笑いを一席申し上げます」とか「お後が大勢」とか、途絶えそうな慣用句を研究する。体育会系もある。あそこで「頑張れ!」と叫んでいる留学生はボクシングをしている。ムアン・チャイだ!

学食に行ってみる。デザートのみかんが「千円」でビックリ!「お薦めはなんですか?」と訊いたら、「菜をおあがりか?」…「これよ!奥や!」…「義経にしておけ」。ヘルシーランチは「玉子焼きが沢庵」「蒲鉾が大根」。「珍しいものはありませんか?」と訊いたら、「台湾土産のちりとてちん」が出てきて、もう大変!

落語マニアが喜ぶネタ満載の新作落語である。