玉川太福「地べたの二人」祭り

玉川太福独演会「地べたの二人祭り~おかわり~」に行きました。太福先生の地べたの二人シリーズを8本うなるという特別企画だ。曲師は玉川みね子師匠、開口一番は三遊亭東村山さんで「転失気」だった。
十年/亀戸梅屋敷/配線ほどき/愛しのロウリュ/上空の二人/夜の煙突/JAFを待ちながら/おかず交換
「十年」。金井と齋藤が休憩時間に特製健康茶を飲み、カールを食べている。「金井くんはこの仕事を始めて何年になる?」「十八のときに始めて、今二十八ですから、丸十年ですね」。その“丸”とは何か?金井いわく「ピッタリというか、ジャストというか…」。「そうなのか、きょうでピッタリ10年なのか!」と驚く齋藤に、「だいたいというか、ざっくりというか…」。ピッタリジャストにだいたい、ざっくりというのはどういうことかとツッコミを入れられ、面倒くさくなって、丸十年と言わず「十年」と言うようになった金井は「丸はお休みです。アニバーサリー的な」と説明するのが可笑しい。
「配線ほどき」。金井と齋藤の仕事は電気工事だ。現場の天井を見て、配線がこんがらがっているのを見て、「ちょっと解くのは難しいですね」と金井。一応、状態をスマホで写真に撮って、脚立を降りて齋藤に見せる。「この辺が…」と言いながら、指先で操作して画像を拡大して説明する。齋藤も同じように指先で拡大すると、他の画像が出てきてしまった。ネコ。金井の家の飼い猫らしいが、齋藤が異様にこのネコを気に入って、「可愛いか?」と訊いてくる。検討しながら齋藤が「ちょっとネコ、挟むか」と言うのが可笑しい。そして、「名前は何というのか」と訊いて、「名前…ないです」。本当は近所の子供から「齋藤さん」と呼ばれていることはひたすら隠す金井が面白い。
「愛しのロウリュ」。金井が銭湯好きだと知って、サウナに誘った齋藤だが、実はサウナはそれほど詳しくない金井が可笑しい。熱波師と呼ばれる「サウナストーンに水をかけて蒸気を発生させ、その蒸気をタオルで仰いで熱風を送り、体感温度をあげる」一連の行為が、滑舌が異常に悪い熱波師の説明と相まって、二人の戸惑いぶりが目に見えるようで愉しい。
「上空の二人」。「地べた」があるなら、「上空」があっても良いのではと渋谷らくごの「しゃべっちゃいなよ」のプロデューサーである林家彦いち師匠に言われて創作した作品だそうだ。ヘリコプターに乗って、上空3000メートルまでいき、インストラクターに導かれるままにスカイダイビングを体験する二人。パラシュートが開くまで、落下速度は時速200キロ。そのときの齋藤の顔の表現が太福先生ならではで秀逸だ。そして、それらは全て現場で居眠りをしていた齋藤の夢だったという…。
「JAFを待ちながら」。現場に行く途中で移動手段であるハイエースが故障を起こし、コンビニの駐車場でJAFを待っている二人。JAFの職員が到着するまで1時間かかるという。首にタオルを巻き、アイスコーヒーを飲みながら、「JAFって公務員かな?」と他愛もない会話をするのが、いかにも金井と齋藤らしい。その会話の中で、しばしば金井が「神ってる」という表現を使うので、五十代の齋藤は「それは何?」と訊くのが可笑しい。「オーマイゴッドからきているんじゃないか」「金井くんはクリスチャン?」「いえ、仏教です」「だったら、ブッダだよね」。だったら、「まじ、仏!」じゃないの?という発想が面白い。
「おかず交換」。渋谷らくごの第1回創作大賞を受賞し、太福先生の代名詞にもなった記念碑的作品。金井のコンビニ弁当の唐揚げにタルタルソースをかけるという発想が齋藤にはとても新鮮に見えて、「食べてみたい!」と思うところがポイントだ。ただで貰うのは申し訳ないので、自分の弁当の鮭をあげようとするが、それでは弁当のおかずの半分以上がなくなってしまうので、「半分あげる」。だけど、「皮の付いている方」。齋藤にとっては特別サービスのつもりだったが、金井は鮭の皮を食べたことがないという。「猫が食べていたという幼少時代の記憶しかないので」。いいから食べてみなよ!パリパリして美味しいから!と齋藤があまりに勧めるものだから、口に入れてみるが、嚙み切れない。よって、飲みこめない。この様子を「モグモグ、モグモグ…」と節にのせるのが太福浪曲の真骨頂だろう。最後は客席も一緒になって「モグモグ、モグモグ…」。大いに盛り上がって、大団円となった。