しゃべっちゃいなよ 古今亭駒治「西武家の一族」、そして立川談吉ひとり会「太郎お伊勢」

配信で渋谷らくご「しゃべっちゃいなよ」を観ました。若手による新作落語ネタおろしの会だ。

「翻訳しまーす」春風亭いっ休/「ウミガメのスープ」三遊亭青森/「黄金比」柳家花いち/「沖な物あて」瀧川鯉八/「西武家の一族」古今亭駒治

いっ休さん。北海道出身だが、京都で大学生活を過ごした経験を基にしている発想が良い。京都人は言っている言葉に裏があり、そこには気づかない嫌味や皮肉がこめられているという…。ミヤコさんに京都を案内されたアズマ君の前にしばしば現れる京都言葉研究者のトダナツオがいちいちミヤコの言葉の裏の意味を“翻訳”するのが面白かった。

青森さん。暇つぶしに親友が繰り出した“水平思考クイズ”に対し、頓珍漢な質問しかしない主人公。クイズの答えは全く導き出せないのだが、そこまでに至る主人公の発言の数々が実は伏線となっていて、事態は思わぬ方向へ…。物事には全て意味がある、それは水平思考クイズへのアンチテーゼのようにも取れた。

花いち師匠。ナツエがタカコに教える黄金比。カルピスの液と氷と水、麵つゆと水、クッキーの玉子と砂糖とバター…。そして、それと同様に人生は比率によって決まってくるという。タカコが実はタカシ君と付き合っていることを告白し、そのタカシ君との恋愛にまつわる事象を黄金比になぞらえていくのが花いち師匠らしくて面白かった。

駒治師匠。傑作である。西武池袋線と新宿線を仲の悪い姉妹に喩える擬人化が実に面白い。池袋線の特急はレッドアローなのに対し、新宿線は小江戸。池袋線は有楽町線や副都心線、さらに東急東横線と浮名を流しているのに、新宿線は東西線を総武線に横取りされてしまったという…。

そんな新宿線が東武東上線と恋仲になる。東上線も伊勢崎線がスカイツリーラインと名前を変えて関係がぎくしゃくしているので、お互いの気持ちが理解できるのだ。将来は結婚して相互乗り入れをしようと約束していた。だが、その関係を知ったJR川越線が池袋線に密告し、池袋線は嫉妬に燃えて駅の数で勝負しようという。

池袋線は36駅。新宿線は29駅。池袋線には豊島園線と狭山線が加わり、39駅に。だが、新宿線には多摩川線、国分寺線、拝島線、多摩湖線、西武園線、レオライナーが加わり、53駅に。新宿駅が勝利した。そして、何よりこの全線の駅名を駒治師匠が言い立てるところは圧巻であった。

立川談吉ひとり会に行きました。「水屋の富」「太郎お伊勢」「笠碁」の三席。

「太郎お伊勢」。いかにも談吉ワールドで愉しい。わかめ漁師の太郎と人魚のお伊勢との出会いからはじまるラブストーリーがファンタジーである。嵐が激しくなり、干していたわかめが心配になった太郎が浜辺に出てみると、法螺貝を吹く美しい人魚に遭遇する。わかめが首に巻き付いている人魚を助けてあげようと近づくと、人魚は恐れをなして海へ逃げるが…。岩に頭をぶつけて血だらけになりながら、献身的に助けようとする太郎を見て、人魚は「刺身にされてしまう」という誤解を解き、自分は伊勢海老の人魚だと名乗る。

そこから太郎とお伊勢は毎晩浜辺で逢瀬を重ね、太郎の正直、優しさ、そしてお伊勢の天真爛漫な明るさにお互いが惹かれていく。お伊勢は父親である海の王様に「太郎と夫婦になりたい」と願うと、条件が出された。一カ月一緒に暮らしてみて、気が変わらなければ夫婦になりなさい。ただし、気が変わったら太郎をジジミにしてしまう。

二人の陸での生活がはじまった。お伊勢は下半身が人間のように二本足になった代わりに上半身は伊勢海老になった。だが、太郎はこれを受け入れ、ひとつ屋根の下で幸せな時間を過ごした。もう少しで一カ月になろうとしていた頃、寝ていたお伊勢が泡を吹いて動かなくなってしまった。太郎は「海に帰してあげよう」と小舟で時化の中、海へ出た。すると、海の王様が姿を現した。太郎は自分がシジミになっても構わないから、お伊勢の命を助けてあげてくれと懇願する。

すると、お伊勢は球体に包まれ、宙に浮き、中から粘液まみれのお伊勢が出てきた。なんと、お伊勢は脱皮して人間になったのだった。海の王様は言う。「人間は海に生きることはできない。陸で太郎と一緒に暮らせ」。太郎の献身的なお伊勢への愛が結実して、二人は生涯一緒に暮らすことができたという…。幻想的なファンタジーでもあり、素敵な人情噺でもある談吉さんの高座だった。