京山幸枝若独演会「左甚五郎 猫餅」、そして けんこう一番!三遊亭兼好「猫の災難」

京山幸枝若独演会に行きました。「左甚五郎 猫餅」と「米屋剣法」の二席。前講は京山幸太さんで「小鉄初旅」、曲師は虹友美師匠だった。

幸枝若先生の相三味線を勤めていた一風亭初月師匠が急逝したため、虹友美師匠が代演し、一風亭初月追善興行となった。急なことで驚いた。プログラムでこの会の主催者が以下のように綴っている。

「生き死にというのはホンマに隣り合わせのもんやね」としみじみと語る幸枝若先生の言葉に頷くほかありませんでした。一風亭初月師匠の急逝を報じる新聞記事はいずれも「浪曲の伴奏をする曲師」と紹介していました。いずれも同じ記述だから貰い記事なんでしょうが、義太夫の三味線を伴奏などと呼んだらぶん殴られることでしょうに。それだけ浪曲の曲師は職掌も知られておらず、舐められた存在であることを証明しています。

義太夫もそうですが、言葉と物語を持つ浪曲師は、まずはリズムと音楽を持つ三味線の師匠に教わり、引っ張って貰って一人前になるものです。曲師は、三味線の演奏のみならず、浪曲師以上に演目や節も把握している必要があります。その点、初月師匠は、マニアックな音源コレクターでもあり、知識も技術も充分な頼れる曲師でした。

幸太や幸乃が次々にネタ卸しでき、新作に挑めるのも初月師匠という守護神があればこそです。初月師匠の急逝を受けて、入門当初は習っていたという三味線をもう一度やり直すと幸太も言っていますし、幸乃も同様です。以上、抜粋。

ご冥福をお祈りします。

幸枝若先生の「猫餅」は何とネタ卸しだそうだ。小田原宿に「本家猫餅」という看板を掲げた店が向かい合わせに二軒。変わり者の甚五郎は繁盛している店ではなく、一人も客のいない店に立ち寄る。この店で可愛がっていたタマという名前の猫が銭函の上にチョコナンと座り、その銭函に客が代金6文を入れる。それがこの店のマスコット的存在で繁盛していた。向かいの店がそのタマを借りたいと言ってきたので貸したところ、タマは働かずに寝てばかりいたので、店主が怒って杵で叩いたら死んでしまったのだという…。

貸した方の店の爺さんは悔しがったが、婆さんに「仇を討ってくれ」と遺言を遺してあの世に逝ってしまった。近所の大工の八五郎が木彫りの猫を彫ったが、鼠が鼻をかじってしまって、うまくいかなかった。この話を聞いた甚五郎は「俺に猫を彫らせてくれ」。出来たのは招き猫ではなく、右手が受け手になっている。その手の上に代金6文を載せると、あれ不思議、6文を銭函に落とし、手の上から消える!八五郎が彫った二代目は駄目だったが、甚五郎の彫った三代目は魂が宿っているという演出がコミカルで面白い。

「生き仏だ!」。これを見た小間物屋の喜兵衛と大工の八五郎は「俺たちに任せておけ!」と言って、この噂を町内中に触れ回り、店はにぎわいを取り戻した。向かいの店の主人はこれを不審に思い、役人に訴えた。すると、婆さんに対して「仕掛けを白状せよ」と縄で縛り、牢に入れてしまう。甚五郎はこのことを知り、慌てて奉行所に駆け込み、猫に施した細工について説明し、婆さんの疑いは晴れ、見事に偽りの猫餅屋に対し仇討ちを果たしたという…。愉しくて、おめでたい高座であった。

「けんこう一番!春スペシャル~三遊亭兼好独演会」に行きました。「三人旅~びっこ馬」「夫婦岩」「猫の災難」の三席。前座は三遊亭けろよんさんで「釜泥」、ゲストはチェロ奏者の斎藤静さんだった。

「猫の災難」。主人公が酒が好きで好きで堪らない、悪く言うと酒に意地汚い様子がよく表現されていて面白い。兄ィが鯛を買ってきている間に、一升瓶の酒を「兄ィも店で味見してきたと言っていたな」と毒見。色が違う、これが酒か!、ドンとくる、そこから広がって抜けていく、いい酒は回るな、兄ィ早く帰ってくればいいのに…と言いながら、湯呑一杯を飲み干してしまう。

で、つい「もう半分」となり、こんなに盛り上がっても溢れない、とってもいい、酔うのが早い、いい酒は体のほうがドーゾと言ってくる、冷やでこんなに美味いのはなかなかない、止まらない!…二杯目も飲み干してしまう。

「そうだ。兄ィは一合上戸なんだ。兄ィの分を取っておけばいい」と、一合徳利に注ぐが、体が震える。溢したら勿体ない、壁に沿って注げばいいと注ぐが…案の定溢してしまう。すごい溢れている!畳を叩くと酒がジュワッと滲み出してきて、「畳ごと飲みたい!」と言うのが可笑しい。

勿体ない。これ以上溢したくない。「吸うか!」という考えに至って、蓑を持ち出し、藁から吸い上げることにする。何だろう?吸った方が美味い!何で?と言いながら、どんどん徳利から吸い上げてしまう。細くなると美味く感じるのかな。もうちょっと長い藁…チュー、チュー。この酒を藁で吸い上げるところが最高に可笑しい。で、結局みんな吸っちゃった。

ほとんど残っていない酒を見て、言い訳を考える。鯛のとき同様、隣の猫のせいにしよう。猫が一升瓶を倒した。しょうがない。これしかない。そうと決まれば、これっぱかり残しても仕方ない。兄ィ驚くだろうな。

もう一回酒を買いに行く間に鯛を食べちゃう。また鯛を買いに行く間に酒を飲んじゃう。行ったり来たり。兄ィ、面白い人!♬夜桜や浮かれ烏の~浮かれている場合じゃない!と出刃庖丁を取り出し、猫を追い掛けるような恰好をしようとするが、眠くなって欠伸をして、ついには居眠りしているところに、兄ィが帰ってくるという…。

酒乱というよりは、酒に目がない可愛い男。だけど、やっていることは兄ィに失礼なことばかり…。主人公の言動に怒りを覚えてもいいはずなのに、なぜか愛おしいと思ってしまう人物描写に兼好師匠の手腕を見た。