新作落語せめ達磨 林家きく麿「絶対うまい」

新作落語せめ達磨に行きました。

「老人vs新作落語」三遊亭ごはんつぶ/「東京―新大阪」弁財亭和泉/中入り/「絶対うまい」林家きく麿/「ペットは家族」柳家花いち

ごはんつぶさん。二ツ目の落語家、三遊亭ヒカリガオカさんにサイトウと名乗る人から地域寄席出演の依頼があった。出演予定だった柳家四四師匠が体調不良のため、代わりに出演してほしいという。光が丘の地域寄席ということもあり、「これも何かの縁かと思って」という依頼だ。だが、現場に行ってみると幹事のサイトウさんをはじめ、お客さんは毎年開催されるこの寄席で古典落語を聴くのを楽しみにしていたのだった。ヒカリガオカさんは新作一本で勝負している落語家なのだが、サイトウさんは調べもせずに依頼、「古典が出来ない落語家さんがいるんですか?何かできるんでしょう?」と意に介さない。

当たって砕けろとばかりに、ヒカリガオカさんは「時そば」の改作、タイの屋台街を舞台にした「時スムージー屋」を思い切って演じたが…。客席からは怒号の果てに杖や入れ歯ケースが飛んできて、気を失ってその場に倒れるお客さんも続出…「最期に古典が聴きたかった」。噺に展開がなく、高座に寝転がったりするだけの、ドタバタ劇という印象を持った。

和泉師匠。小学校1年生のショウイチを連れた若夫婦がゴールデンウイーク初日に東京駅から新幹線に乗って、大阪のユニバーサルスタジオジャパン(USJ)ほか二泊三日の家族旅行をするという噺。3人の荷物を積めたスーツケースを棚にあげたけれど、水筒やら手帳やら必要なものを中から取り出さなければいけなくて、夫はその都度棚からスーツケースを上げたり下ろしたりしなければならず、2時間半の旅路で15回も上げ下ろしするというところに眼目を置いた構成になっていた。

でも、一番面白かったのは妻の買ったシウマイ弁当の件。東京駅を出発する前から食べようとするので理由を訊くと、「新横浜に着く前に食べきらないと崎陽軒の人たちに悪い。横浜で作ったシウマイ弁当をわざわざ東京駅まで朝早くに運んでくれたことに対して、礼儀を尽くさないといけない」。すると、夫が鋭い指摘をする。「弁当に貼ってあるラベルをよく見てごらん。製造は東京都江東区大島だろう!」。可笑しかった。

きく麿師匠。タドコロさんがヨシダ君に酒蔵一番星の蔵開きに誘う。新酒「苦笑い」が「絶対うまい」からと力説する。だが、ヨシダ君は「絶対」という言葉に引っ掛かりを感じた。「絶対ってなんでわかるんだよ!もし、不味かったら、どう責任取るんだ!」。「絶対」という言葉への思い込みが面白い。

二浪の男の子が両親に「今年は絶対合格します」と言って、両親も「絶対合格しろよ」と言うが、不合格になって三浪、四浪となって、親に八つ当たりをして、家庭内暴力を起こしたらどうするんだ!「応援するから、ちゃんと頑張れ」でいいじゃないか。「絶対」という言葉を使うと悲劇が起きるんだと。

で、実際に一番星の蔵開きに行くと、杜氏が挨拶して、「実は5年前から開発していた新酒がついに出来まして…大吟醸『絶対うまい酒』という名前にしました」。さらにコラボレーション企画として、演歌歌手のノボリザカクダリさんが新曲を発表。タイトルは「絶対うまい、俺の酒」。絶対ヒット間違いない。絶対紅白に出ます。と言って、熱唱するところはきく麿師匠の本領発揮で滅茶苦茶面白かった。「絶対」という言葉の重みに対し、それを軽々しく使う人間への皮肉がこもっていて良い。

花いち師匠。愛玩している犬のカオルちゃんの五歳の誕生祝いをフランス料理店でおこなう主人公は「私にとっては家族なの」という。オーナーシェフは精魂こめて作った料理をたった5秒で食べられてしまうことに屈辱を感じる。十八歳で修業をはじめ、ようやく自分の店を持つことが出来た。「お客様の笑顔が見たい」と思って、仕込み、調理、盛り付け、すべてにこだわりを持っているのだから、時間をかけて味わって食べてほしい…。シェフの気持ちがよくわかる。

その気持ちが伝わったのか、犬のカオルちゃんが「おいしかったよ」と喋った!シェフは「予約2名となっていたのに、1名と1匹じゃないか!犬かよ!」とはじめは思ったが、それが「犬にも心があるんだ」と考えを改める。そして、「犬が喋った」という噂が広まり、お店は大繁盛した。

5年後。カオルちゃん、十歳の誕生日にこの店をまた訪れる。すると、シェフが出てきて、「あなたからペットの素晴らしさを教わった。私も犬を飼うようになった」と言う。出てくる料理も海老とほうれん草とドッグフードの蒸し焼き、真鯛のいなばちゅ~るポケットソース、バニラアイスの歯磨きガム添え…。「ペットは家族」という考えの末、行き着いたメニューだという。「ペットは家族」もここまでいくと…考えモノだよねえという新作だった。