浪曲定席木馬亭 東家孝太郎「江戸相撲 蒙古襲来」玉川奈々福「忠治山形屋」

木馬亭の日本浪曲協会二月定席千秋楽に行きました。

「心の故郷」天中軒かおり・沢村博喜/「勝田新左衛門 妻子別れ」東家三可子・旭ちぐさ/「足軽出世美談」港家小そめ・沢村博喜/「大坂城落城の淀君」春野恵子・旭ちぐさ/中入り/「江戸相撲 蒙古襲来」東家孝太郎・沢村まみ/「柳沢昇進録 お歌合せ」桃川鶴女/「忠治山形屋」玉川奈々福・沢村まみ/「徳川家康 人質から成長まで」天中軒雲月・沢村博喜

かおりさんの「心の故郷」は後半部分。孤児院で虐待を受けていた二人の男の子、丑松と正一を心ある人が引き取り、鍋焼きうどんを売らせていたが、どうにも立ちいかない。そこで、知り合いの酒井の旦那に養育を引き受けてもらおうとお願いに行くと、意外な真実が判明する。人間ドラマだ。

正一は停車場に置き去りにされていた捨て子で、唯一の手掛かりは身に付けていたお守り。そこには「母 朝子」と書かれていたが、「父」の名前は消されていた。その話を聞いた酒井の旦那が「実の父はこの私です」と打ち明ける。今から10年前に朝子と別れ、財産目当てに玲子と夫婦になった。だが、愛のない家庭はとても寂しかったと懺悔する…。これから正一、それに丑松の面倒を見ることで、事態は明るい希望に向けて進むと結んだ。機会があれば、フルバージョンで聴きたい。

三可子さんの「勝田新左衛門」。担ぎ八百屋をしていた新左衛門が舅の大竹重兵衛と両国でバッタリ会った翌日、正装をして重兵衛宅を訪ねる。重兵衛は「仇討はいつに決まったのか」と執拗に訊くが、あくまで平静を装い、「仇討など考えていない。この度、西国の藩に仕官が叶った」と新左衛門は嘘を貫く。「犬侍!」と重兵衛が罵っているのを背に去って行く新左衛門を妻と息子はどんな気持ちで見送ったのだろうと考えると心が痛む。

孝太郎さんの「江戸相撲蒙古襲来」、面白かった!“看板だけの大関”八重垣は相撲を取らずに土俵入りだけを勤める。それはなぜか?強すぎて、本気を出したら江戸の相撲は怪我人だらけになってしまうため、親方衆の寄り合いでそう取り決めたのだった。八重垣だって本当は相撲を取りたい。張子の虎のように見世物にされるのはつらいという気持ちは良くわかる。

朝鮮通信使が訪日した際に、雲をつくような大男を同行させた。日朝関係において、日本が優位に立っているのが悔しくて、蒙古の力士が江戸の人気力士を負かすことで溜飲をさげようという魂胆だった。これでは面目丸潰れ、江戸相撲の底力を見せてやれ!と親方衆は思案をして、考え付いたのが八重垣に相撲を取らせることだった。

頭取がお前を指名していると間垣親方が八重垣に伝える。八重垣は今更江戸の相撲を守れとは身勝手だ、自分にも意地があると断った。だが、賞金で300両が出るという。八重垣には故郷に重い病の母親がいて、200両もする薬を飲まないと治らないと言われていたのだ。八重垣は母親のために蒙古の力士と対戦することを承諾する。

そして、深川八幡宮境内で勧進相撲がおこなわれた。八重垣は蒙古力士とがっぷり四つになるが、ここぞとばかりに踏ん張って、相手を吊り上げて、吊り落としで勝利を収めた。そして、八重垣は賞金を懐に入れて、故郷に急いで向かったという…。興味深い読み物だった。

奈々福先生の「忠治山形屋」。正義のヒーロー、国定忠治がカッコイイ。金策に困って娘おみつを山形屋藤蔵親分に50両で買ってもらった嘉右衛門。だが、その帰り道で山形屋の子分に襲われ、50両を強奪され、首を括ろうとしたところを忠治が見つけ、止めた。山形屋の卑怯なやり方を知った忠治のこの後の言動が素敵だ。

嘉右衛門の“引受人”として山形屋に乗り込み、「俺の名前が知りたいか。知ったら、草鞋銭が少し高くなるぞ。いいのか?俺は佐位郡の忠治だ!」。山形屋の身内は随分と面倒を見た、50両は貰いたいと要求し、山形屋藤蔵はあっさり50両を渡す。「俺の50両は済んだ。オヤジの50両はどうするんだ?」と言って、ドスをちらつかせ、「この鞘を掃うと無事じゃすまねえぞ!」。これで、嘉右衛門にも50両が渡された。

さらに娘のおみつを「気に入った。貰っていく。身請けする」。山形屋が「60両は貰わないと合わない」と言うと、「証文を見せろ」。証文を受け取り、これを嘉右衛門に渡し、「破っちまえ」。「60両…生憎、持ち合わせがない。内金で我慢しろ」と言って、1両を渡す。「証文を一本、入れておく」と言って、忠治は証文を書いて、山形屋に渡す。そこに書かれていたのは、「残り59両はある時払いの催促なし」。山形屋、ビックリするが何も言えない。

駕籠を二挺誂え、嘉右衛門とおみつを乗せる。一人一両で二両、それに祝儀が二分、〆て二両二分のところ、「10両払う」と忠治は気前の良いところを見せ、その上で「山形屋、お前が出せ」。さらに忠治の懐に入った50両をおみつにポン!と渡し、「赤い帯でも土産に買え」。恐縮するおみつに対し、「礼を言うなら、あのおじさん(山形屋)に言え」。山形屋の弱い者苛めの報いだ。忠治の「今度は首だぞ!」という台詞はさぞ山形屋に響いただろう。侠客モノは良いねえ。

雲月先生の「徳川家康」。於大の息子・竹千代を思う母心が毎回印象に残る。信長に「土産は何だ?」と訊かれ、「母の心、それ一つでございます」という答え。それに対し、「信長も確かに受け取った」。そして、於大と竹千代の対面が許され、強く抱きしめ、溢れる涙。「許されるなら、このまま連れて帰りたい」。辛く悲しい母心だ。