【大相撲初場所】大関・豊昇龍が優勝決定巴戦を制し、横綱昇進へ

大相撲初場所は千秋楽で、大関・豊昇龍と平幕の王鵬、金峰山が3敗で並び、優勝決定巴戦の末に、豊昇龍が9場所ぶり2度目の優勝を果たした。と同時に、来場所に横綱昇進を確実なものにした。

執念の優勝、そして横綱獲りだった。14日目を終わって、金峰山が2敗で優勝争いのトップに立ち、3敗で豊昇龍と王鵬が追う形で千秋楽を迎えた。本割で王鵬は金峰山を押し出しで破り、また豊昇龍が琴櫻を寄り切って、三力士が3敗で並んだ。そして、優勝決定巴戦では豊昇龍が金峰山、王鵬を圧倒的な強さで退けて、大関として初めての優勝を飾った。先場所、琴櫻との相星決戦に敗れて惜しくも準優勝に終わった悔しさを吹き飛ばし、2場所連続優勝またはそれに準ずる成績という横綱昇進の内規を満たした。

初日から投げに頼らない前へ出る相撲を心掛け、先場所よりも力強い取り口が光っていた。だが五日目に熱海富士、八日目は正代、九日目は平戸海といずれも平幕に苦杯を舐め、優勝争いのトップとは2差をつけられ、一時は横綱獲りは難しいように思われた。しかし、諦めることなく十日目から白星を重ね、綱獲りへの僅かな望みを捨てず、師匠の立浪親方から言われた「楽しんでいけ」という言葉を噛みしめて土俵に上がったのが実を結んだ形だ。

五日目に一人横綱として角界を背負っていた照ノ富士が引退を表明した。令和3年九州場所から20場所、大相撲の看板を守ってきた。一度大関に昇進しながらも、膝の怪我で序二段まで番付を下げたが、そこから見事な復活を遂げて横綱に昇進した努力の人の功績は大きい。横綱在位中も膝だけでなく、腰痛や糖尿病とも戦い、いつ引退してもおかしくない状態で、去年も2度の優勝を果たし、目標とする10回の優勝を記録した。心からお疲れ様と言いたい。その横綱の地位を番付に空位を作ることなく、豊昇龍が昇進して看板を引き継ぐ歴史的意味は大きい。

初場所の土俵を盛り上げた最大の功労者は、金峰山ではないか。先場所に十両優勝をして再入幕。初日から9連勝して、優勝争いを単独トップで千秋楽まで走り続けた。後半戦は三大関を含む上位力士との対戦が組まれたが、臆することなく戦い、大の里と琴櫻の二大関を倒した。残念ながら最後のところで賜杯を逃したが、敢闘賞だけでなく、殊勲賞を受賞しても良かったのではないか。

王鵬も地力をつけた。連日、突き押しで前で出る相撲が冴え、賜杯の行方を優勝決定巴戦にまで持ち込み、館内を沸かせた。この突き押しが評価されての技能賞受賞だと思う。来場所は初の三役昇進が確実だ。「大鵬の孫」というレッテルはついて回るだろうが、さらに稽古を重ねて上の番付を目指してほしい。

霧島は去年の夏場所まで大関にいた実力者だ。今場所は11勝を挙げて敢闘賞を受賞したが、これだけで満足する力士ではない。来場所は三役昇進が確実だ。大関復帰を目指して頑張ってほしい。尊富士も最後まで優勝争いに絡んだが、去年春場所に110年ぶりの新入幕優勝を果たしたときのパワーには劣るものを感じた。大関を狙える逸材だと思うので、さらに力をつけることを期待したい。

大栄翔が関脇で11勝を挙げた。随分以前から大関候補と言われた力士である。押し相撲に徹する貴重な存在だ。これを起点にして、大関獲りを狙ってほしい。また、玉鷲が40歳で先場所に続き勝ち越し、千秋楽に勝って二桁の星を挙げれば敢闘賞だったのだが、惜しくも逃してしまった。しかしながら、このベテランの活躍は相撲人気に一役買っている。ずっと幕内で存在感を示してほしい。

場所前、一番の焦点は琴櫻の大関獲りだった。先場所、豊昇龍との相星決戦に勝って、初優勝。誰もが横綱候補最有力に挙げた。それがどうしたことだろう、5勝10敗で来場所は一転してカド番となってしまった。身体はどこも悪くないように見える。精神的なプレッシャーに押し潰されたのか。同じく大関の大の里は10勝に終わった。去年、夏場所と秋場所に優勝した勢いはどこへいってしまったのか。突き押しや右四つになって攻め込む相撲は変わらないが、詰めに脆さを感じる相撲が多かった。琴櫻も大の里もこんなに弱い力士ではないはずだ。豊昇龍の横綱昇進に刺激を受けて、奮起を期待したい。

十両の土俵も面白かった。獅司が激しく前に出る取り口で、13勝2敗の好成績で優勝し、再入幕が確実だ。また、安青錦が師匠の安治川親方譲りの巧い相撲が光って、12勝を挙げて新入幕するのも楽しみだ。若碇も優勝を争っていたが、獅司戦で負傷して休場してしまったのが残念だった。小兵ながら小気味いい相撲が好きだ。来場所の活躍に期待したい。

王鵬の弟の夢道鵬が幕下優勝を果たした。来場所は幕下上位に上がってくる。初土俵は王鵬に遅れること2年、令和元年九州場所。若元春と若隆景、琴勝峰と琴栄峰、翔猿と英乃海に続く兄弟力士として話題を呼ぶ日を楽しみにしたい。

照ノ富士の引退によって相撲界は新しい時代を迎える。新横綱の豊昇龍が頂点になるだろうが、大関以下の役力士、さらに幕内上位に実力者が揃っており、まだまだ誰が優勝してもおかしくないという群雄割拠の時代が続きそうだ。楽しみである。